失業保険と年金は同時にもらえない?60歳からの受給ルールと手続き
「定年退職したら、失業保険と年金の両方がもらえると思っていた」
「ハローワークに行ったら年金が止まるなんて知らなかった」
「失業保険と年金、どっちを選べば得なの?」
——こうした声は、60代で退職を迎える方に非常に多い悩みです。
60〜64歳で退職すると、雇用保険の失業給付(基本手当)と特別支給の老齢厚生年金の両方を受け取る権利が発生します。
しかし、この2つは同時に受給できません。
ハローワークで求職の申込みをした時点で年金が全額ストップするため、知らずに手続きを進めると「年金が止まった」と想定外の収入減に陥ることがあります。
この手続きガイドでは、60〜64歳退職時の失業保険と年金の併給調整ルール、年金停止の手続き、「どちらが得か」の判断基準、そして65歳以降の別ルールまで、わかりやすく解説します。
1. 失業保険と年金は同時にもらえない(60〜64歳のルール)
1-1. 併給調整の原則
60〜64歳で退職した方が、特別支給の老齢厚生年金を受給できる場合、雇用保険の基本手当(失業保険)と年金は同時に受け取ることができません。
これは日本年金機構「年金と雇用保険の失業給付との調整」で明記されているルールです。
ハローワークで求職の申込みをした日の属する月の翌月から、年金が全額支給停止になります。
実際に失業保険を受け取ったかどうかに関係なく、ハローワークで求職の申込みをした時点で年金は停止されます。
「とりあえず登録だけ」のつもりでも、年金には影響が出ます。
1-2. 対象となる方
この併給調整が適用されるのは、以下の両方に該当する方です。
- 特別支給の老齢厚生年金の受給権がある(受給開始年齢に達している)
- 雇用保険の被保険者期間が受給資格を満たしている
特別支給の老齢厚生年金の対象者は、生年月日と性別によって受給開始年齢が異なります。
男性は2025年度に特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢引上げが完了し、1961年(昭和36年)4月2日以降生まれの方は対象外です。
女性は2030年度に完了予定で、1966年(昭和41年)4月2日以降生まれの方は対象外となります。
この併給調整ルールも、対象となる方は今後減少していきます。
詳しくは以下の手続きガイドをご覧ください。
1-3. 年金が停止される期間
年金が停止される期間は、次のとおりです。
| 開始 | 終了 |
|---|---|
| 求職の申込みをした月の翌月 | 受給期間が経過した月、または所定給付日数を受け終わった月のいずれか早い方 |
求職の申込みをした当月分の年金は支給されます。
停止が始まるのは翌月からです。
2. 年金停止の手続き
2-1. ハローワークでの手続き
退職後、まずハローワークで求職の申込みを行います。
- 持参するもの
- 雇用保険被保険者離職票(退職後2週間程度で届く)
- 本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)
- 写真2枚(タテ3cm×ヨコ2.4cm)
- 払渡希望金融機関指定届(離職票に付属)
失業保険の手続きの詳細は、以下の手続きガイドで解説しています。
2-2. 年金事務所への届出
ハローワークで求職の申込みをしたあと、年金事務所への届出が必要です。
- 届出書類
「老齢厚生・退職共済年金受給権者 支給停止事由該当届」
- 持参するもの
- 雇用保険受給資格者証
- 年金証書
- 本人確認書類
年金請求書に「雇用保険被保険者番号」を記入していれば、年金機構側で自動的に停止処理が行われる場合もあります。
ただし、届出が遅れると支給停止の処理が遅れ、後日返還を求められる可能性があるため、早めの届出が安心です。
2-3. 事後精算の仕組み
失業保険を受け取っていない月があっても、求職申込み中は年金が月単位で全額停止されます。
そのため、失業保険の受給が終了した後に事後精算が行われます。
事後精算の計算式は次のとおりです。
支給停止解除月数 = 年金停止月数 − 失業給付の実際の支給対象月数
支給停止解除月数が1以上であれば、その月数分の年金が遡って支給されます。
たとえば年金が8ヶ月停止されたのに、実際に失業給付を受けたのが5ヶ月分だけであれば、3ヶ月分の年金が後から支払われます。
事後精算による年金の支給は、失業給付の受給終了後3ヶ月程度かかります。
すぐには振り込まれない点にご注意ください。
3. 失業保険と年金、どちらが得か?
3-1. 比較の考え方
失業保険を受け取ると年金が止まるため、「どちらが得か」を事前に比較しておくことが重要です。
判断の基本式は以下のとおりです。
失業保険の総額 = 基本手当日額 × 所定給付日数
停止される年金の総額 = 年金の月額 × 年金停止月数
失業保険の総額が停止される年金の総額を上回れば、失業保険を選んだ方が有利になります。
3-2. 具体的な計算例
Aさんの例(63歳・定年退職・勤続30年)
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 退職前の平均月給 | 30万円 |
| 賃金日額 | 10,000円(30万円×6ヶ月÷180日) |
| 基本手当日額 | 約5,220円(給付率の計算による) |
| 所定給付日数 | 150日(定年退職・被保険者期間20年以上) |
| 失業保険の総額 | 約783,000円 |
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 特別支給の老齢厚生年金(年額) | 120万円 |
| 年金の月額 | 10万円 |
| 年金停止期間(目安) | 約7ヶ月 |
| 停止される年金の総額 | 約70万円 |
この例では、失業保険(約78万円) > 停止される年金(約70万円)のため、失業保険を受け取った方が約8万円有利です。
Bさんの例(62歳・自己都合退職・勤続15年)
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 退職前の平均月給 | 25万円 |
| 基本手当日額 | 約4,690円 |
| 所定給付日数 | 120日(自己都合・被保険者期間10年以上20年未満) |
| 失業保険の総額 | 約562,800円 |
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 特別支給の老齢厚生年金(月額) | 12万円 |
| 年金停止期間(目安) | 約5ヶ月(給付制限1ヶ月+受給期間含む) |
| 停止される年金の総額 | 約60万円 |
この例では、停止される年金(約60万円) > 失業保険(約56万円)のため、年金を受け続けた方がやや有利です。
ただし差額は小さいため、再就職の意思が強い方は失業保険を選ぶメリットもあります。
失業保険は、再就職の意思と能力があり、積極的に求職活動を行う方に支給されるものです。
「年金より得だから」という理由だけで申請することはできません。
4週間に1回の失業認定日にハローワークへ出向き、求職活動実績を報告する必要があります。
3-3. 判断のポイントまとめ
以下のチェックリストで「どちらが得か」を判断できます。
- 自分の基本手当日額を計算する(退職前6ヶ月の賃金÷180日×給付率)
- 所定給付日数を確認する(退職理由・被保険者期間による)
- 特別支給の老齢厚生年金の月額を確認する(ねんきん定期便で確認可能)
- 「失業保険総額」と「停止される年金総額」を比較する
- 再就職活動を実際に行う意思があるか確認する
4. 60〜64歳の基本手当の給付額と日数
4-1. 基本手当日額の計算方法(60〜64歳)
60歳以上65歳未満の方の基本手当日額は、以下のように計算します。
賃金日額 = 退職前6ヶ月の賃金合計(賞与を除く) ÷ 180日
| 賃金日額(w) | 給付率 | 基本手当日額(y) |
|---|---|---|
| 3,014円以上〜5,340円未満 | 80% | 2,411円〜4,271円 |
| 5,340円以上〜11,800円以下 | 80〜45% | 4,272円〜5,310円 |
| 11,800円超〜16,940円以下 | 45% | 5,310円〜7,623円 |
| 16,940円超(上限額) | — | 7,623円(上限) |
※2025年(令和7年)8月1日以降の基準額です。
4-2. 所定給付日数(60〜64歳)
| 退職理由 | 1年以上5年未満 | 5年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 |
|---|---|---|---|---|
| 定年退職・自己都合 | 90日 | 90日 | 120日 | 150日 |
| 倒産・解雇等 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
倒産・解雇等による離職の場合は、給付日数が大幅に多くなります。
5. 65歳以降は別ルール - 高年齢求職者給付金なら年金と同時にもらえる
5-1. 65歳以降は「併給OK」
65歳以降に退職した場合、雇用保険から支給されるのは「基本手当」ではなく高年齢求職者給付金です。
高年齢求職者給付金は一時金として支給され、老齢年金との併給が可能です。
つまり、65歳以降なら年金をもらいながら失業手当も受け取れます。
5-2. 高年齢求職者給付金の金額
| 被保険者であった期間 | 給付日数 |
|---|---|
| 1年未満 | 30日分 |
| 1年以上 | 50日分 |
基本手当(最大150〜240日)と比べると日数は少ないですが、年金が止まらないのが大きなメリットです。
5-3. 64歳と65歳で退職した場合の比較
| 項目 | 64歳で退職 | 65歳で退職 |
|---|---|---|
| 受け取る給付 | 基本手当(最大150日) | 高年齢求職者給付金(最大50日) |
| 年金との併給 | 不可(年金停止) | 可能(年金継続) |
| 給付の形 | 4週間ごとに支給 | 一時金で一括支給 |
64歳で退職すると基本手当(最大150日分)は多いものの年金が止まります。
65歳で退職すると高年齢求職者給付金(最大50日分)は少ないものの年金は止まりません。
どちらが有利かは、年金月額と基本手当日額のバランス次第です。
高年齢雇用継続給付の仕組みについては、以下の手続きガイドも参考にしてください。
6. 損しないための退職タイミングと戦略
6-1. 「64歳11ヶ月退職 → 65歳で申請」の戦略
一部では「64歳11ヶ月で退職し、65歳になってからハローワークに申請すれば、基本手当が年金と併給できる」という情報が見られます。
この点について整理します。
- 離職日時点で64歳であれば、雇用保険上は「65歳未満」として基本手当の受給資格を得る
- ただし、65歳の誕生日の前々日以前に離職していることが条件
- 65歳になってから求職の申込みをしても、65歳以降の基本手当については年金との併給調整は行われない
失業保険の受給期間は、原則として退職日の翌日から1年間です。
65歳になるのを待ってから申請する場合、この1年の期限を超えないよう注意してください。
期限を過ぎると、残りの給付日数があっても受け取れなくなります。
6-2. 退職前にやるべきこと
退職前に以下を確認しておくと、最適な選択ができます。
- ねんきん定期便で年金額を確認する
「ねんきんネット」や年金事務所で、特別支給の老齢厚生年金の見込額を確認 - ハローワークで基本手当日額の目安を把握する
退職前6ヶ月の給与明細から賃金日額を試算 - 所定給付日数を確認する
退職理由(定年 or 自己都合 or 会社都合)と被保険者期間で決まる - 比較シミュレーションを行う
「失業保険の総額」と「停止される年金の総額」を比較
よくある質問(FAQ)
Q. 求職の申込みをしただけで、まだ失業保険をもらっていなくても年金は止まりますか?
A. はい、求職の申込みをした月の翌月から年金は全額停止されます。
実際に基本手当を受け取ったかどうかに関係なく、ハローワークに求職の申込みをした時点で停止の対象になります。
ただし、給付制限期間など実際に基本手当を受けていない月については、失業給付の受給終了後に事後精算が行われ、年金が遡って支給されます。
Q. 自己都合退職の給付制限期間中も年金は停止されますか?
A. はい、停止されます。
自己都合退職の場合、原則1ヶ月の給付制限期間(2025年4月の雇用保険法改正で2ヶ月から短縮)の後に基本手当の支給が始まりますが、年金の停止は求職申込みの翌月から始まります。
ただし、この給付制限期間中は実際に基本手当を受けていないため、事後精算で年金が戻ってくる場合があります。
なお、5年間で3回以上の自己都合退職の場合は、給付制限期間が3ヶ月になります。
Q. 失業保険を全額もらい終わった後、年金はいつ再開しますか?
A. 基本手当の受給終了後、約3ヶ月程度で年金の支給が再開されます。
所定給付日数をすべて受け終わった月(または受給期間が経過した月)の翌月分から年金の支給停止が解除されます。
ただし、実際の振込みには事後精算の処理があるため、再開まで3ヶ月程度かかることがあります。
Q. 65歳前に繰上げ受給した老齢厚生年金も停止の対象ですか?
A. はい、対象です。
繰上げ受給した老齢厚生年金も、65歳前であれば失業給付との併給調整の対象になります。
繰上げ受給で年金が減額されたうえに停止もされるため、繰上げ受給を検討している方は特に慎重な判断が必要です。
まとめ
60〜64歳で退職する方にとって、失業保険と年金の併給調整は必ず知っておくべきルールです。
要点を整理します。
- 特別支給の老齢厚生年金と失業保険(基本手当)は同時に受け取れない
- ハローワークで求職の申込みをした月の翌月から年金が全額停止
- 失業給付の受給終了後に事後精算で差額が戻る場合がある
- 65歳以降に退職した場合は、高年齢求職者給付金と年金の併給が可能
- 退職前に年金額と失業保険額を比較し、どちらが有利かをシミュレーションしておくことが大切
退職後の手続き全体の流れについては、以下の手続きガイドも参考にしてください。
