老老介護で限界の前に〜公的支援で負担を減らす手続き
「80代の妻を介護しているが、もう体力もお金も限界」
「このまま家族だけで抱えていたら共倒れになりそう」
——そんな声が、いま全国で増えています。
高齢の夫婦や親子が互いを介護する「老老介護」は、身体的にも経済的にも追い込まれやすいのが現実です。
しかし、介護保険をはじめとする公的支援を正しく使えば、負担は確実に軽くなります。
この手続きガイドでは、相談の入口から要介護認定の申請、使えるサービス、そして高額介護サービス費や負担限度額認定といった「お金を軽くする制度」まで、老老介護の負担を減らす手続きを順番に解説します。
老老介護はなぜ「共倒れ」しやすいのか
老老介護とは、65歳以上の高齢者が、同じく65歳以上の家族(配偶者や親、きょうだいなど)を介護している状態を指します。
平均寿命が延びる一方で健康寿命との差は大きく、夫婦のどちらかが要介護になっても、もう一方も高齢で体力が落ちているケースが珍しくありません。
抱え込みが招く3つのリスク
家族だけで介護を抱え込むと、次のような悪循環に陥りやすくなります。
- 介護者の体調悪化
夜間の介助や入浴介助で腰や膝を痛め、介護者自身が倒れてしまう。 - 経済的な行き詰まり
「家で看れば安く済む」と思って始めたものの、医療費や生活費がかさんで限界に達する。 - 社会的な孤立
外出や相談の時間が取れず、必要な支援にたどり着けないまま孤立する。
介護者が共倒れすると、被介護者も含めて生活が立ち行かなくなります。
「まだ大丈夫」と思ううちに、早めに公的支援につながることが何より重要です。
公的支援で「お金」と「体力」の両方が軽くなる
公的支援には、大きく分けて次の2つの効果があります。
- 体力の負担を減らす
訪問介護やデイサービス、ショートステイを使えば、介護者が休息(レスパイト)を取れます。 - お金の負担を減らす
介護サービスの自己負担は原則1割で、さらに高額介護サービス費や負担限度額認定で上限が設けられます。
「サービスを使うとお金がかかる」と感じがちですが、負担軽減制度を組み合わせれば、抱え込むよりむしろ家計が安定するケースが多いのです。
最初の一歩は「地域包括支援センター」への相談
何から始めればいいか分からないときの相談窓口が、地域包括支援センターです。
全国の市区町村に設置されており、保健師・社会福祉士・主任ケアマネジャーなどの専門職が、介護や福祉、お金の悩みを無料で相談に乗ってくれます。
地域包括支援センターでできること
- 介護保険や使えるサービスの説明
- 要介護認定の申請の代行
- ケアマネジャーや事業所の紹介
- 高齢者虐待や成年後見など、権利を守るための支援
- 介護以外の生活困窮や医療の相談先の案内
「困っています、助けてほしい」と率直に伝えるのがコツです。
入院中であれば、病院の医療ソーシャルワーカー(相談員)に相談すると、入院中に認定調査を進めてくれることもあります。
お住まいの地域包括支援センターは、市区町村の窓口で教えてもらえるほか、次の検索からも探せます。
手続きの起点:要介護認定の申請
介護保険のサービスを使うには、まず要介護認定を受ける必要があります。
要介護認定とは、「どれくらい介護が必要か」を公的に判定する手続きで、これがサービス利用のスタート地点になります。
申請できる人と窓口
申請窓口は、市区町村の介護保険担当窓口または地域包括支援センターです。
申請は本人や家族のほか、次の事業者が代行できます。
- 地域包括支援センター
- 居宅介護支援事業者(ケアマネジャー)
- 介護保険施設
老老介護では、本人も配偶者も窓口に行くのが難しいことがあります。
その場合は申請代行を使えば、家族が役所に出向かなくても手続きを進められます。
申請に必要なもの
- 要介護・要支援認定申請書(窓口や自治体サイトで入手)
- 介護保険被保険者証(65歳以上の方)
- 医療保険の被保険者証(40〜64歳の方)
- マイナンバーが確認できるもの
- 主治医の氏名・医療機関名がわかるもの
申請から認定までの流れ
- 申請
窓口に申請書を提出します。 - 認定調査
調査員が自宅などを訪問し、心身の状態を聞き取り調査します。 - 主治医意見書
市区町村が主治医に意見書の作成を依頼します。 - 審査・判定
コンピュータ判定(一次)と介護認定審査会(二次)で要介護度を判定します。 - 結果通知
原則として申請から30日以内に、認定結果が郵送で届きます。
認定区分は、軽い方から要支援1・2、要介護1〜5の7段階です。
急いでサービスが必要な場合は、ケアマネジャーが「暫定ケアプラン」を作成することで、認定結果が出る前から利用を始められます。
認定結果は申請日にさかのぼって適用されます。
認定調査をスムーズに受けるコツ
認定調査では、できることを無理に見せようとすると、実際より軽く判定されてしまうことがあります。
- 普段できないことや困っていることは、ありのまま伝える
- 家族が立ち会い、日頃の様子(夜間の行動、物忘れなど)を補足する
- 困りごとは事前にメモにまとめておく
要介護認定の申請手順や認定調査のコツをさらに詳しく知りたい方は、次の手続きガイドもあわせてご覧ください。
介護保険で使えるサービスの種類と選び方
要介護認定を受けたら、ケアマネジャーと相談しながらケアプランを作り、サービスを利用します。
老老介護では、介護者が休める時間をつくる視点でサービスを組み合わせるのが大切です。
主な在宅サービス
| サービス | 内容 | 老老介護での使いどころ |
|---|---|---|
| 訪問介護(ホームヘルプ) | ヘルパーが自宅で入浴・排泄・食事の介助や生活援助 | 力仕事の介助を任せて介護者の体を守る |
| 訪問看護 | 看護師が自宅で健康管理や医療的ケア | 持病や医療的ケアがある場合 |
| 通所介護(デイサービス) | 日帰りで食事・入浴・レクリエーション | 介護者が日中に休息・用事を済ませる |
| 通所リハビリ(デイケア) | 日帰りでリハビリを受ける | 身体機能の維持・回復 |
| 短期入所(ショートステイ) | 施設に数日〜2週間ほど宿泊 | 介護者の休息や冠婚葬祭・入院時 |
| 福祉用具貸与・購入 | 車いす・介護ベッド・入浴補助用具など | 自宅での介助の負担を軽くする |
デイサービスやショートステイは、被介護者のためだけでなく、介護者が心身を休めるレスパイトケアとしても有効です。
「申し訳ない」と抱え込まず、積極的に活用しましょう。
使える金額には上限(区分支給限度基準額)がある
在宅サービスは、要介護度ごとに1か月に使える上限額(区分支給限度基準額)が決まっています。
この範囲内なら自己負担は原則1割(所得により2〜3割)で済み、超えた分は全額自己負担になります。
| 要介護度 | 1か月の上限額(目安) | 自己負担1割の目安 |
|---|---|---|
| 要支援1 | 50,320円 | 約5,032円 |
| 要支援2 | 105,310円 | 約10,531円 |
| 要介護1 | 167,650円 | 約16,765円 |
| 要介護2 | 197,050円 | 約19,705円 |
| 要介護3 | 270,480円 | 約27,048円 |
| 要介護4 | 309,380円 | 約30,938円 |
| 要介護5 | 362,170円 | 約36,217円 |
在宅介護が限界に近づいたときは、特別養護老人ホームなどの施設入所も選択肢になります。
施設の種類や費用、選び方は次の手続きガイドが参考になります。
負担を軽減する制度①:高額介護サービス費
ここからは、介護のお金を直接軽くする制度を見ていきます。
1つ目が高額介護サービス費です。
どんな制度か
1か月に支払った介護サービスの自己負担(1〜3割)の合計が、所得に応じた上限額を超えた場合、超えた分が後から払い戻される制度です。
上限額は、世帯や本人の所得・課税状況によって次のように決まります。
| 区分 | 上限額(月額) |
|---|---|
| 生活保護を受けている方等 | 15,000円(個人) |
| 住民税非課税世帯で、年金収入等が年80万9千円以下の方等 | 個人15,000円/世帯24,600円 |
| 住民税非課税世帯(上記以外) | 24,600円(世帯) |
| 住民税課税世帯(一般・課税所得約380万円未満) | 44,400円(世帯) |
| 課税所得約380万〜690万円未満(年収約770万〜1,160万円) | 93,000円(世帯) |
| 課税所得約690万円以上(年収約1,160万円以上) | 140,100円(世帯) |
「課税所得」は、年収や手取り額そのものではなく、年収から公的年金等控除や各種所得控除(基礎控除・配偶者控除・社会保険料控除など)を差し引いた後の、税金の計算のもとになる金額です。
そのため、年収の額面より大幅に少なくなります。年金収入が中心の世帯の多くは、一番上の「一般(44,400円)」の区分に当てはまります。
自分の課税所得は、毎年6月頃に届く住民税の課税決定通知書や、市区町村の窓口で確認できます。
施設の居住費・食費、差額ベッド代、福祉用具の購入費、住宅改修費、そして区分支給限度額を超えて全額自己負担になった分は、高額介護サービス費の対象になりません。
払い戻し額の目安をシミュレーション
実際にいくら戻るのか、目安を計算してみましょう。
申請方法
多くの自治体では、対象になると市区町村から支給申請書が郵送されてきます。
- 初回のみ申請すれば、2回目以降は登録した口座に自動的に振り込まれる自治体が多い
- 施設の協力が得られれば、窓口で上限額だけを支払う「受領委任払い」を使える場合もある
仕組みや「いくら戻るか」をさらに詳しく知りたい方は、次の手続きガイドをご覧ください。
負担を軽減する制度②:介護保険負担限度額認定
2つ目が介護保険負担限度額認定です。
特別養護老人ホームなどの施設入所やショートステイを使うと、介護サービス費とは別に食費・居住費がかかります。
この食費・居住費を軽減するのが負担限度額認定です。
対象になる人(所得要件と資産要件)
次の両方を満たす場合に対象となります。
- 所得要件
本人および世帯全員が住民税非課税であること(別世帯の配偶者も非課税であること)。 - 資産要件
本人と配偶者の預貯金等が、段階ごとの基準額以下であること。
資産要件は次のとおりです(2025年8月時点)。
負担限度額認定の所得基準や食費・居住費の金額は、2026年8月に改正が予定されています。
最新の基準は、お住まいの市区町村の介護保険窓口で確認してください。
| 段階 | 所得の状況 | 預貯金等(単身/夫婦) |
|---|---|---|
| 第1段階 | 生活保護受給者等/老齢福祉年金受給者(非課税世帯) | 生活保護は要件なし/老齢福祉年金は1,000万円/2,000万円以下 |
| 第2段階 | 前年の合計所得+年金収入が80万9千円以下 | 650万円/1,650万円以下 |
| 第3段階① | 80万9千円超〜120万円以下 | 550万円/1,550万円以下 |
| 第3段階② | 120万円超 | 500万円/1,500万円以下 |
段階を分ける「合計所得金額」は、収入から必要経費や公的年金等控除を差し引いた後の金額で、年金や給与の額面そのものではありません。
負担限度額認定では、これに非課税の年金(障害年金・遺族年金)も含めた金額で段階を判定します。
そもそもこの制度は世帯全員が住民税非課税であることが前提のため、まずは「自分が非課税世帯かどうか」を市区町村の窓口で確認するのが近道です。
具体的な段階の判定も窓口で相談できます。
認定を受けると、食費・居住費が次の金額まで軽減されます。
| 段階 | ユニット型個室 | 従来型個室 | 多床室 | 食費 |
|---|---|---|---|---|
| 第1段階 | 880円 | 550円 | 0円 | 300円 |
| 第2段階 | 880円 | 550円 | 430円 | 390円 |
| 第3段階① | 1,370円 | 1,370円 | 430円 | 650円 |
| 第3段階② | 1,370円 | 1,370円 | 430円 | 1,360円 |
軽減がない場合、食費は1日あたり1,445円、ユニット型個室の居住費は2,066円が基準のため、認定を受けると負担が大きく下がることがわかります。
有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅・軽費老人ホームの食費・居住費は、この制度の対象外です。
また、虚偽の申告で不正に軽減を受けると、給付額の返還に加えて最大2倍の加算金が課される場合があります。
申請方法と注意点
- 申請書と、本人・配偶者の預貯金等が確認できる通帳の写しなどを、市区町村の窓口または郵送で提出します。
- 認定証の有効期間は申請月の初日から翌年7月31日までで、毎年更新が必要です。
- 認定証は利用する施設に必ず提示してください。提示しないと軽減が受けられません。
対象段階や申請の詳細は、次の手続きガイドで確認できます。
さらに知っておきたい追加の支援制度
介護保険の制度に加えて、老老介護の家計を支える制度もあわせて検討しましょう。
高額医療・高額介護合算療養費
1年間(毎年8月〜翌年7月)に支払った医療保険と介護保険の自己負担の合計が、所得区分ごとの限度額を超えた場合に、超えた分が支給される制度です。
医療と介護の両方に費用がかかる老老介護では、該当する可能性があります。
該当する場合は、役所から春頃に申請の案内が届くことが多いので、見逃さないようにしましょう。
医療費そのものの負担を抑える高額療養費(高額医療費制度)については、次の手続きガイドが参考になります。
介護する側(家族)を支える介護休業給付金
離れて暮らす子などが介護のために仕事を休む場合、雇用保険の被保険者であれば介護休業給付金を受けられます。
賃金の67%を、対象家族1人につき通算93日まで(3回まで分割可)受け取れます。
仕事を辞める前に、まずこの制度の利用を検討してください。
最後のセーフティネット:生活保護
預貯金や収入が国の定める基準を下回り、ほかの制度を使っても生活が成り立たない場合は、生活保護も選択肢になります。
生活保護を受けると、介護扶助によって介護サービスの自己負担が実質0円になるなど、介護の費用面でも支えられます。
自治体独自の助成
紙おむつの支給・助成、介護用品の購入助成、家族介護慰労金など、市区町村が独自に実施している支援もあります。
お住まいの自治体で使える制度を調べてみましょう。
老老介護の負担軽減アクションリスト
何から手を付ければいいか迷ったら、次の順番で進めてみてください。
- 地域包括支援センターに相談する
まずは電話で「困っている」と伝える。 - 要介護認定を申請する
本人が動けなければ申請代行を使う。 - ケアプランを作りサービスを使い始める
介護者が休めるよう、デイサービスやショートステイも組み込む。 - 高額介護サービス費の対象か確認する
自治体からの案内を見逃さない。 - 施設利用なら負担限度額認定を申請する
非課税世帯なら食費・居住費が下がる。 - 追加の支援制度をチェックする
合算療養費・介護休業給付金・自治体独自の助成・生活保護も検討。
よくある質問(FAQ)
Q. 親(配偶者)が介護認定やサービスを嫌がります。どうすればいいですか?
A. 一人で説得しようとせず、まず地域包括支援センターに相談してください。
「他人を家に入れたくない」「お金がかかるから」と拒否されるのは、老老介護でよくある悩みです。
専門職から第三者として説明してもらったり、まずは見学やお試し利用から始めたりすると、本人の抵抗感がやわらぐことがあります。
本人の不安(プライドや費用の心配)に寄り添いながら、少しずつ進めるのが現実的です。
Q. 認定結果が出る前でも介護サービスは使えますか?
A. 暫定ケアプランを作れば、認定前から利用できます。
急いでサービスが必要な場合は、ケアマネジャーに相談して暫定ケアプランを作成してもらいましょう。
認定結果は申請日にさかのぼって適用されるため、想定より軽い介護度が出た場合は自己負担が増える可能性がある点だけ注意してください。
Q. 世帯分離すれば負担限度額認定を受けられますか?
A. 世帯分離だけで必ず対象になるわけではありません。
負担限度額認定では、別世帯の配偶者の課税状況や、本人・配偶者の預貯金等の資産要件も確認されます。
そのため、世帯分離をしても配偶者が課税されていたり預貯金が基準を超えていたりすると対象になりません。
判断に迷う場合は、市区町村の介護保険窓口に相談してください。
Q. 高額介護サービス費は申請しないともらえませんか?
A. 申請が必要ですが、多くの自治体では対象者に申請書が送られてきます。
初回に申請すれば、2回目以降は自動的に口座へ振り込まれる自治体が多いです。
心当たりがあるのに案内が来ない場合は、市区町村の窓口に確認しましょう。
申請には時効(支給対象月の翌月1日から2年)があるため、早めの手続きが安心です。
まとめ
老老介護は、家族だけで抱え込むほど共倒れのリスクが高まります。
負担を減らす手続きの流れは、次のとおりです。
- まず地域包括支援センターに相談する
- 要介護認定を申請し(申請代行も可)、ケアプランでサービスを使う
- 高額介護サービス費で月々の自己負担に上限をかける
- 施設利用なら負担限度額認定で食費・居住費を軽くする
- 合算療養費・介護休業給付金・生活保護・自治体独自の助成も検討する
これらの制度の多くは「申請しないと使えない」申請主義です。
「もう限界」と感じる前に、まずは地域包括支援センターへ一本電話を入れることから始めてみてください。