不登校で仕事を辞める前に - 介護休業など両立支援制度
「子どもが不登校になり、仕事を辞めるべきか悩んでいる」
「低学年の子を家に一人にできず、出勤できない」
「送迎や付き添いで、もう限界かもしれない」
子どもの不登校をきっかけに、保護者が離職する「不登校離職」が増えています。
しかし、仕事を辞める前に使える公的な支援制度があることは、あまり知られていません。
実は2025年以降、不登校の子のケアにも「介護休業」が使えることが国によって明確にされました。
この手続きガイドでは、辞めるかどうかの判断材料から、介護休業・子の看護等休暇・在宅勤務など、仕事を続けながら子どもに寄り添うための制度と手続きをわかりやすく解説します。
1. 不登校で仕事を辞める前に知っておきたい現状
子どもの不登校は、今や特別なことではありません。
文部科学省の「令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によると、2024年度に年間30日以上欠席した不登校の小中学生は約35万4千人で過去最多となり、12年連続で増加しています。
高校生の不登校も約6万8千人にのぼります。
それに伴い、子どものそばにいるために保護者が仕事を辞める「不登校離職」が社会問題として注目されるようになりました。
特に次のようなケースで、保護者が離職に追い込まれやすい傾向があります。
- 低学年で家に一人にできない
小学校低学年では、日中に子どもを一人で留守番させることへの不安が大きくなります。 - 共働き・ひとり親で代わりがいない
日中に家にいられる家族がおらず、どちらかが働き方を変えるしかない状況に陥りがちです。 - 送迎や付き添いが断続的に発生する
「1時間だけ登校できる日」の送迎や、別室登校への付き添いなどで、まとまった就業時間を確保しにくくなります。
厚生労働省は「介護で仕事を辞める前にご相談ください」と呼びかけており、不登校の子のケアも同様に、離職の前に使える制度の確認が重要です。
辞めてしまってから「制度があると知っていれば」と後悔しないよう、まずは選択肢を整理しましょう。
2. 仕事を辞めると決める前に整理したい3つの視点
「辞めるべきか、続けるべきか」は、周囲の意見に流されると判断を誤りがちです。
まずは次の3つの視点で、自分と子どもの状況を整理してみてください。
2-1. 子どもの状態
不登校の背景や状態は一人ひとり異なります。
- 医療や専門家とつながっているか
睡眠障害・頭痛・腹痛・強い不安などがある場合、医療機関やスクールカウンセラーへの相談が先決です。 - 本当に親の在宅を必要としているか
「一人になりたい」と感じている子もいます。
親が常にそばにいることが、必ずしも回復につながるとは限りません。
2-2. 保護者自身の状態
子どもだけでなく、保護者自身が消耗していないかも重要な視点です。
臨床心理士によれば、保護者が最も消耗するのは送迎そのものよりも「学校と子どもの間に立ち、調整し続ける役割」だと指摘されています。
- 朝の対応で毎日疲れ果てていないか
- 学校とのやり取りや見極めに神経をすり減らしていないか
心身の限界が近いと感じる場合は、後述の休業制度で一度立ち止まることも選択肢になります。
2-3. 使える支援とお金
感情だけで決めず、使える制度と家計への影響を確認します。
- 介護休業・子の看護等休暇・時短・在宅勤務など、勤務先で使える制度はないか
- 辞めた場合の収入減・社会保険・キャリアへの影響はどのくらいか
一度離職すると、再就職時に収入やキャリアが元の水準に戻らないことも少なくありません。
「辞める」は最終手段と考え、まず制度を使って働き方を調整できないかを検討しましょう。
3. 【最新】不登校の子のケアに介護休業が使える
「介護休業」と聞くと高齢の親の介護を思い浮かべる方が多いですが、実は不登校の子どものケアにも利用できることが、国によって明確にされています。
まずは、対象から給付金までの全体像を確認しておきましょう。
3-1. 国が認めた「不登校でも介護休業」
厚生労働省は、公式サイト「育児・介護休業法について」で、次のように明記しています。
不登校児童生徒が育児・介護休業法における「常時介護を必要とする状態」に該当する場合には、介護休業・休暇制度等が利用可能です。
2025年11月には、文部科学省と厚生労働省が連名で、不登校の子の保護者が介護休業・休暇を利用できることを周知するチラシ「不登校の現状をご存じですか?」を作成しました。
国会でも、不登校の子の親が介護休業を取れるかを問われた厚生労働大臣が「子どもが不登校のケースも想定される」と答弁しており、政府としての見解は固まっています。
介護休業の「対象家族」には、配偶者や父母だけでなく子も含まれます。
そのため、不登校の子が一定の状態にあれば、親は介護休業の対象になり得ます。
3-2. 「常時介護を必要とする状態」とは
ポイントは、子どもが「常時介護を必要とする状態」に当てはまるかどうかです。
これは「2週間以上にわたり常時介護を必要とする状態」を指し、2025年(令和7年)4月1日から判断基準が見直されました。
具体的には、次の(1)または(2)のいずれかに該当する場合です。
- (1) 状態の項目で判断
厚生労働省が定める12項目について、状態「2」が2つ以上、または状態「3」が1つ以上あてはまり、その状態が続くと認められること。 - (2) 要介護度で判断
介護保険制度の要介護状態区分で「要介護2」以上であること。
12項目と「状態1・2・3」とは
(1)の12項目とは、日常生活で介助や見守りがどれくらい必要かをみるチェック項目です。
たとえば、座位保持・歩行・水分や食事の摂取・排泄・衣類の着脱・意思の伝達・「外出すると戻れない、危険を回避できないことがある」・「物を壊したり衣類を破いたりする」・「日常生活に支障を来すほどの認知や行動上の課題がある」・薬や医療機器の使用や管理などが含まれます。
各項目は、状態の重さによって「1・2・3」の3段階で評価します。
- 状態1
自分でできる(支障がない)。 - 状態2
一部の介助や見守りが必要(支えがあればできる、ときどきできないなど)。 - 状態3
全面的な介助が必要(自分ではできない、ほとんど毎回起こるなど)。
このうち「状態2が2つ以上」または「状態3が1つ以上」あり、その状態が続く場合に(1)に該当します。
「要介護2」とは
(2)の「要介護2」は、介護保険制度で要介護度を判定したときの区分です。
要介護度は軽いほうから「要支援1・2」「要介護1〜5」に分かれ、その中で2番目以降に重い区分を指します。
ただし、介護保険の要介護認定は原則40歳以上が対象です。
そのため、子どもの場合は(2)ではなく、(1)の12項目の基準で判断するのが基本になります。
不登校そのものが直ちに該当するわけではありませんが、背景に精神的な不調や障害があり、常時の見守り・ケアが必要な状態が続いている場合には、対象となり得ます。
ここでいう「要介護状態」は育児・介護休業法上の考え方で、高齢者向けの介護保険の「要介護認定」とは別物です。
子どもが若くても、(1)の基準を満たせば介護休業の対象になり得ます。役所での要介護認定が必要なわけではありません。
3-3. 申請方法と証明書類
介護休業は、原則として休業開始予定日の2週間前までに、勤務先へ申し出ます。
会社は申し出を受けた際、対象家族が要介護状態にあることなどを証明する書類の提出を求めることができます。
ここで多くの人が誤解しがちなポイントがあります。
証明書類は「医師の診断書」に限定されていません。
要介護状態にある事実を証明でき、労働者が提出できる書類であればよいとされています。
会社は就業規則で医師の診断書の添付を義務づけることはできず、診断書が出ないことを理由に休業を拒むことはできません。
診断書がすぐに用意できない場合でも、要介護状態の事実を示せる書類であれば提出できます。
たとえば、次のような書類が考えられます。
- 医療機関やスクールカウンセラーの所見・意見書
通院先や学校の専門職に作成を相談できる場合があります。 - 通院や相談の記録
受診歴や相談歴がわかるもの。 - 自治体の支援機関などが発行する書類
相談先で発行してもらえる場合があります。
ただし、最終的にどの書類で認めるかは会社の判断によります。
何を提出できるかを早めに勤務先と相談しておくと安心です。
実際には、人事担当者が制度を十分に理解しておらず「子どもの不登校では介護休業は取れない」と誤って案内されるケースもあります。
その場合は、上記の厚生労働省のページや周知チラシを示し、改めて相談してみましょう。
それでも解決しない場合は、後述の「9. 困ったときの相談窓口」の労働局に相談できます。
3-4. 介護休業給付金で収入の一部をカバーできる
介護休業中は、雇用保険から「介護休業給付金」が支給されます。
- 支給額
休業開始時の賃金のおおむね67%(上限あり)。 - 期間
対象家族1人につき通算93日まで。
3回まで分割して取得できます。
おおよその給付額は、以下のシミュレーターで確認できます。
介護休業給付金の受給条件や計算方法、必要書類の詳細は、以下の手続きガイドで詳しく解説しています。
4. 通院や短期の休みには子の看護等休暇
数日単位の通院付き添いや、子どもの調子が悪い日の対応には、「子の看護等休暇」が役立ちます。
これは病気・けがの看護のほか、予防接種や健康診断などのために取得できる休暇で、2025年4月の改正で使いやすくなりました。
- 対象となる子の範囲
「小学校就学前」から「小学校3年生修了まで」に拡大されました。 - 取得できる日数
対象の子が1人なら年5日、2人以上なら年10日です。 - 取得事由の追加
感染症に伴う学級閉鎖や、入園(入学)式・卒園式への参加も対象に加わりました。
介護休業が「まとまった期間の休業」であるのに対し、子の看護等休暇は「1日・時間単位の短期的な休み」に向いています。
まずは子の看護等休暇や有給休暇で対応し、長期化しそうなら介護休業に切り替える、という使い分けが現実的です。
制度を組み合わせることで、いきなり離職を選ばずに済むケースは少なくありません。
子の看護等休暇や病児保育の活用方法は、以下の手続きガイドで解説しています。
5. 辞めずに働き方を変える(時短・在宅・残業免除)
休業ではなく、働き方そのものを調整して両立する方法もあります。
2025年4月以降に段階的に施行された改正育児・介護休業法では、子育て中の労働者向けの両立支援が拡充されました。
- 柔軟な働き方を実現するための措置(2025年10月施行)
事業主は、3歳以上小学校就学前の子を持つ労働者に対し、始業時刻の変更・テレワーク・短時間勤務・新たな休暇など複数の選択肢から2つ以上を用意する義務があります。 - テレワークの導入
3歳未満の子を持つ労働者向けに、テレワークが事業主の努力義務とされました。 - 所定外労働の制限(残業免除)
残業を免除してもらえる対象が、小学校就学前の子を持つ労働者まで広がりました。
これらは会社の制度として整備されているため、まずは人事や上司に「使える制度はないか」を確認するのが第一歩です。
朝の対応に時間が必要なら時差出勤、送迎が発生するなら在宅勤務やフレックスなど、自分の状況に合った調整を相談してみましょう。
なお、法定の措置に加えて、子どもの不登校を理由とした休業や短時間勤務などの独自制度を設けている企業もあります。
就業規則を確認したり、人事に独自制度の有無を尋ねたりするのもよいでしょう。
6. 自宅で専門的なケアを受ける - 精神科訪問看護
不登校の背景に、強い不安・抑うつ・睡眠の乱れ・発達特性などがある場合、自宅で専門職のケアを受けられる「精神科訪問看護」という選択肢があります。
看護師などが定期的に自宅を訪問し、子どもの心身の状態を見守り、生活リズムの改善や家族の関わり方の相談に応じてくれます。
- 費用
医療保険が適用され、自己負担は原則3割です。
子どもの場合は自治体の子ども医療費助成も使えることが多く、自己負担をさらに抑えられます。 - 自立支援医療(精神通院医療)
精神科に継続的に通院している場合、医療費の自己負担が原則1割になる制度を利用できる場合があります。
精神科訪問看護は医療サービスのため、利用には主治医の判断と指示が必要です。
まずはかかりつけ医や、通院先の医療機関に相談してください。
保護者だけで抱え込まず、医療や専門職の手を借りることで、仕事との両立がしやすくなる場合があります。
7. 子どもの居場所と学びを確保する
「親が家にいなければ」という不安の多くは、日中の子どもの居場所と学びをどう確保するかという問題に行き着きます。
学校以外にも、次のような選択肢があります。
- 教育支援センター(適応指導教室)
教育委員会が設置する公的な施設で、不登校の子の学習や生活を支援します。
多くは無料で利用できます。 - スクールカウンセラー・教育相談
学校や教育委員会の相談窓口で、子どもへの対応や復帰の進め方を相談できます。 - フリースクール
民間の居場所です。
一定の要件を満たせば、在籍校で出席扱いになる場合があります。
フリースクールや自宅学習で出席扱いにするための要件・手続きは、以下の手続きガイドで詳しく解説しています。
お住まいの地域の相談窓口や教育支援センターは、以下から調べられます。
8. 状況別 制度の組み合わせ方
使える制度は、子どもの年齢や状況によって変わります。
お子さんの学齢に近いものを選んで、組み合わせ方の目安を確認してください。
9. 困ったときの相談窓口
一人で抱え込まず、状況に応じて次の窓口に相談しましょう。
- 介護休業・両立支援制度について
各都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)。
会社が制度の利用を認めない場合の相談もできます。 - 介護休業給付金について
お住まいの地域を管轄するハローワーク。 - 子どもの不登校について
学校・教育委員会の教育相談、教育支援センター、スクールカウンセラー。 - 24時間子供SOSダイヤル(0120-0-78310)
子ども本人や保護者が、いつでも相談できる文部科学省の窓口です。
よくある質問(FAQ)
Q. 会社に「不登校では介護休業は取れない」と言われました。あきらめるしかないですか?
A. あきらめる必要はありません。
厚生労働省は、不登校児童生徒が「常時介護を必要とする状態」に該当すれば介護休業・休暇制度等を利用できると明言しています。
人事担当者が制度を知らないケースもあるため、厚生労働省のページや周知チラシを示して再度相談してください。
それでも認められない場合は、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談しましょう。
Q. 医師の診断書がないと介護休業は取れませんか?
A. 診断書は必須ではありません。
会社は要介護状態を証明する書類を求めることはできますが、その書類は「医師の診断書」に限定されていません。
就業規則で診断書の添付を義務づけることはできず、診断書が出ないことを理由に休業を拒むこともできません。
提出できる書類で要介護状態の事実を示せばよいとされています。
Q. パートや契約社員でも介護休業給付金はもらえますか?
A. 雇用保険に加入し、一定の要件を満たせば受け取れます。
雇用形態にかかわらず、雇用保険の被保険者で、休業開始前の被保険者期間などの条件を満たせば支給対象になります。
有期雇用の場合は、休業取得時点での契約の見込みなどに条件があるため、詳しくはハローワークや勤務先に確認してください。
Q. 自営業やフリーランスでも介護休業は使えますか?
A. 介護休業・介護休業給付金は雇用される労働者向けの制度です。
自営業やフリーランスは雇用保険の対象外のため、介護休業給付金は受けられません。
ただし、子どもの居場所支援(教育支援センター・フリースクール)や、精神科訪問看護などの支援は活用できます。
まとめ
子どもの不登校に直面すると、「仕事を辞めるしかない」と思い詰めてしまいがちです。
しかし、辞める前に使える制度は確実に広がっています。
- 不登校の子のケアにも「介護休業」(給付金は賃金の約67%・通算93日)が使える
- 短期の対応には「子の看護等休暇」、働き方は時短・在宅勤務で調整できる
- 精神科訪問看護や教育支援センターなど、家族以外の支えも活用できる
- 制度を会社が誤解している場合は、労働局に相談できる
「仕事か、子どもか」の二択で抱え込まず、制度と支援を組み合わせて、無理のない形で子どもに寄り添う道を探してみてください。
不登校からの進路選びについては、以下の手続きガイドも参考になります。