親の介護に備える介護保険の申請方法 - 要介護認定や手続きの流れ
親が元気なうちは、なかなか考える機会のない「介護」。
しかし、ある日突然必要になることも少なくありません。
いざという時に慌てないために、公的な介護サービスを受けるために必要な「介護保険」の申請方法について、今のうちから知っておきませんか?
この手続きガイドでは、親のために介護保険の申請を考えている方に向けて、介護保険の手続きの基本的な流れ、誰が申請できるのか、そして重要な「要介護認定」とは何かを、専門的な言葉を避けながら分かりやすく解説します。
介護保険とは?まずは基本を知ろう
介護保険は、高齢化社会を支えるための社会保険制度の一つです。
40歳以上の国民が保険料を納めることで、介護が必要になった際に費用の一部 (原則1割、所得に応じて2割または3割) を負担するだけで、様々な介護サービスを利用できる仕組みです。
運営しているのは、私たちが住んでいる市区町村です。
介護保険の申請ができる人 (対象者)
介護保険のサービスを利用できるのは、お住まいの市区町村に申請し、「介護や支援が必要な状態である」と認定された方です。
年齢によって2つの区分に分けられます。
- 第1号被保険者 (65歳以上の方)
- 原因を問わず、日常生活で常に介護や支援が必要になった方。
- 第2号被保険者 (40歳から64歳までの方)
- 加齢に伴う特定の病気 (特定疾病) が原因で、介護や支援が必要になった方。
ワンポイント:特定疾病とは?
がん (末期)、関節リウマチ、骨折を伴う骨粗しょう症、初老期における認知症、脳血管疾患など、厚生労働省が定める16の疾病が対象です。
【重要】介護保険料を納めていることが前提です
介護保険サービスは、対象者ご本人が介護保険料をきちんと納めていることを前提としています。
たとえ代理で申請するご家族 (お子さんなど) がご自身の保険料を支払っていても、サービスを利用するご本人が保険料を滞納していると、いざサービスを利用する際に「給付制限」というペナルティが課せられることがあります。
滞納期間に応じて、以下のような給付制限が適用されます。
| 滞納期間 | 給付制限の内容 |
|---|---|
| 1年以上 | 償還払い:いったんサービス費用の全額 (10割) を支払い、後から保険給付分 (9割〜7割) が払い戻される方式になります |
| 1年6ヶ月以上 | 給付差止め:保険給付が差し止められ、滞納保険料に充てられることがあります |
| 2年以上 | 自己負担割合の引き上げ:自己負担が3割 (一定以上所得者は4割) に引き上げられ、高額介護サービス費も支給されなくなります |
あくまでサービスを利用するご本人の納付状況が重要であり、申請するご家族の納付状況は関係ありません。
もし滞納がある場合は、申請の際に市区町村の窓口で相談しましょう。
介護保険の申請から認定までの流れ
介護保険の申請からサービス開始までの大まかな流れは、全国で共通です。全体像を把握しておきましょう。
- 申請
- お住まいの市区町村の担当窓口に、必要書類を提出します。
- 認定調査
- 市区町村の調査員が自宅などを訪問し、心身の状態について本人や家族から聞き取り調査を行います。
- 同時に、市区町村から本人の主治医に対して、心身の状況についての意見書 (主治医意見書) の作成が依頼されます。
- 審査・判定
- 認定調査の結果と主治医意見書をもとに、コンピュータによる一次判定と、専門家で構成される「介護認定審査会」による二次判定が行われます。
- 認定結果の通知
- 原則として申請から30日以内に、「結果通知書」と「介護保険被保険者証」が郵送で届きます。
- 届く被保険者証は、申請時に提出したものに要介護度と有効期間が記載されて更新されたものです。
- ケアプランの作成・サービス開始
- 認定結果に基づき、どのようなサービスをどのくらい利用するかを決める「ケアプラン」を作成します。
- その後、事業者と契約し、サービスの利用が始まります。
介護保険の申請窓口はどこ?
申請は、本人が住民票を置いている市区町村の役所にある、介護保険担当課や高齢者福祉課などで行います。
どこに行けばよいか分からない場合は、役所の総合案内で「介護保険の申請をしたい」と伝えれば案内してもらえます。
また、お住まいの地域を担当する地域包括支援センターでも申請の相談や手続きの代行を行ってくれる場合があります。
オンライン申請について
一部の自治体では、マイナポータル経由でのオンライン申請が可能になってきています。
具体的には、デジタル庁が運営するマイナポータルから、お住まいの自治体の介護保険申請手続きを検索・申請できる場合があります。
ただし、対応状況は自治体によって異なるため、事前に確認が必要です。
申請のタイミング|いつ申請すべき?
介護保険の申請は、介護が必要になってから行うのが基本ですが、以下のような状況では早めの申請を検討しましょう。
- 退院後すぐに介護が必要になることが予想される場合
- 病院のソーシャルワーカーと相談しながら、入院中に申請することも可能です
- 認知症の症状が進んできた場合
- 早期からの支援により、症状の進行を緩やかにできる可能性があります
- 転倒や骨折など、急に介護が必要になった場合
- できるだけ早く申請することで、必要なサービスを早期に利用開始できます
介護保険の認定は申請した日に遡って有効になります。
そのため、「まだ早いかも」と迷う場合でも、早めに申請しておくことをお勧めします。
介護保険の申請に必要なものリスト
申請の際に必要となる基本的な書類です。
市区町村によって異なる場合があるため、事前に電話などで確認するとスムーズです。
- 介護保険 要介護・要支援認定申請書 (窓口に置いてあります)
- 介護保険被保険者証 (65歳になると市区町村から交付されるピンク色の保険証)
- 医療保険の資格が確認できるもの (40歳〜64歳の方が申請する場合)
- 本人確認書類 (マイナンバーカード、運転免許証など)
- 主治医の情報がわかるもの (診察券など、病院名・所在地・医師名がわかるもの)
40歳〜64歳の方の医療保険資格確認について
従来の健康保険証は2025年12月1日で廃止されました。
現在、介護保険の申請窓口での医療保険資格確認は、主に市区町村がマイナンバーを利用した情報連携で行います。
ただし、確認に時間がかかる場合は、以下のいずれかを持参すると手続きがスムーズです。
- マイナポータルの「医療保険の資格情報画面」(スマホ画面の提示可)
- 医療保険者から届く「資格情報のお知らせ」
- 医療保険者から届く「資格確認書」
申請書の記入項目と書き方
申請書のフォーマットは自治体によって多少異なりますが、記入する内容は全国共通です。
以下の項目を事前に確認しておくと、窓口でスムーズに記入できます。
本人 (被保険者) の情報
- 被保険者番号
介護保険被保険者証に記載されている10桁の番号 - 氏名・フリガナ・生年月日・性別
- 住所・電話番号
日中連絡がつきやすい電話番号を記入
申請区分
申請の種類を選択します。該当するものにチェックを入れます。
| 申請区分 | 対象となる方 |
|---|---|
| 新規 | 初めて申請する方、以前の認定有効期限が切れた方 |
| 更新 | 認定有効期間が終了する前に継続申請する方 |
| 区分変更 | 心身の状態が変化し、現在の介護度を見直したい方 |
現在の居所 (認定調査を受ける場所)
認定調査員が訪問する場所を記入します。
- 自宅で生活している場合:
自宅の住所 - 入院中の場合:
病院名、住所、病棟名、電話番号 - 施設入所中の場合:
施設名、住所、電話番号 - 一時的に家族宅に滞在中の場合:
滞在先の住所
退院や転院の予定がある場合は、その日程も備考欄に記入しておくと調査日程の調整がスムーズです。
主治医 (かかりつけ医) の情報
市区町村がこの情報をもとに主治医意見書の作成を依頼します。
- 医療機関名:
病院やクリニックの正式名称 - 医療機関の所在地
- 医師名:
フルネームで記入(不明な場合は診療科名でも可) - 最終受診日:
直近でその医師に診てもらった日
複数の医療機関にかかっている場合は、介護が必要になった原因の病気を診ている医師を記入します。
個人番号 (マイナンバー)
12桁のマイナンバーを記入します。
マイナンバーカードまたは通知カードで確認できます。
医療保険の情報 (40歳〜64歳の方のみ)
- 医療保険者名:
加入している健康保険の名称(全国健康保険協会、〇〇健康保険組合など) - 被保険者証の記号・番号
- 特定疾病名:
介護が必要になった原因となる病名(16種類の特定疾病から該当するもの)
認定調査の連絡先
調査日程の調整のため、連絡が取れる方の情報を記入します。
- 連絡先氏名:
日程調整ができる方(本人、家族、ケアマネジャーなど) - 電話番号:
日中連絡がつきやすい番号 - 連絡希望時間帯:
午前中のみ、平日の夕方以降など
調査立会い者
認定調査に立ち会う方がいる場合、その方の氏名と続柄を記入します。
家族の立会いを強くおすすめしますので、事前に調整しておきましょう。
申請者・代理人の情報
本人が申請する場合は本人の署名、家族や事業者が代行する場合は代理人の情報を記入します。
- 申請者氏名
- 本人との関係(長男、配偶者、地域包括支援センターなど)
- 住所・電話番号
「要介護認定」では何が行われる?
認定調査は、申請者の介護の手間を測るための重要なプロセスです。
調査員は、全国共通の調査項目に沿って、以下のような点を確認します。
- 身体機能・起居動作 (麻痺の有無、寝返り、起き上がり、歩行など)
- 生活機能 (排泄、食事、入浴、着替えなど)
- 認知機能 (意思の伝達、記憶、問題行動の有無など)
- 精神・行動障害 (情緒の安定性、問題行動など)
- 過去14日間に受けた特別な医療 (点滴、透析など)
調査の際は、普段のありのままの様子を伝えることが大切です。
できないことを「できる」と見栄を張ったりせず、どんなことに、どのくらいの時間や手助けが必要かを具体的に伝えましょう。
ご家族が調査に立ち会うことを強くお勧めします。
本人だけでは伝えきれない日頃の様子や、介護しているからこそ分かる苦労などを補足説明することで、より実態に即した認定が期待できます。
認定調査を上手に受けるコツ
認定調査で適切な介護度を得るためには、いくつかのポイントがあります。
調査員の前では普段より元気に振る舞ってしまう高齢者は多く、「できないこともできると答えてしまう」という声がよく聞かれます。
その結果、実態より軽い認定が出てしまうことも少なくありません。
事前に準備しておくこと
- 普段の様子をメモにまとめておく
「いつ」「どんなことで」「どのくらい困っているか」を具体的に書き出しておきましょう。
調査当日に緊張して伝え忘れることを防げます - 困りごとのエピソードを用意する
「先月、トイレに間に合わなかった」「夜中に3回起きて見守りが必要だった」など、具体的な出来事を伝えると調査員に伝わりやすくなります - 良い日と悪い日があることを伝える
調査当日がたまたま調子の良い日であっても、普段は違うことを説明しましょう
調査当日のポイント
- 家族が必ず立ち会う
本人がいる場所では言いにくいことは、本人がいないタイミングで調査員に伝えましょう。
「本人に少し席を外してもらい、お伝えしたいことがあります」と調査員に相談するのも一つの方法です。 - 「できる」と答えがちな本人には事前に話しておく
認定調査の目的を説明し、正直に答えてもらうようお願いしておきましょう - 介護している側の大変さも伝える
「どのくらいの時間、見守りや手助けが必要か」「精神的な負担はどのくらいか」なども重要な情報です
調査員は本人の言葉だけでなく、家族からの情報も重視しています。
遠慮せずに日頃の苦労を伝えましょう。
認定前でもサービスを使える「暫定ケアプラン」
入院中や退院直後など、認定結果が出る前にすぐにサービスを使いたい場合は、「暫定ケアプラン」という仕組みを利用できます。
暫定ケアプランとは
認定結果が出る前に、ケアマネジャーが介護度を見込んで作成するケアプランのことです。
これにより、正式な認定結果を待たずにサービスの利用を開始できます。
利用する際の注意点
暫定ケアプランでサービスを利用する場合、認定結果によっては費用負担が変わることがあります。
- 認定結果が「非該当 (自立)」の場合
介護保険の給付対象外となり、利用したサービスの費用は全額自己負担 (10割負担) となります - 認定結果が「要支援・要介護」だが見込みより軽かった場合
支給限度額を超えた分のみ自己負担となります。限度額内であれば通常どおり保険給付が受けられます - 事前にケアマネジャーからリスクについて説明を受け、納得した上で利用しましょう
急いでサービスを使いたいときは
- 申請と同時に、地域包括支援センターまたは居宅介護支援事業者に相談する
- ケアマネジャーに暫定ケアプランの作成を依頼する
- 暫定のまま、必要なサービスの利用を開始する
退院日が決まっている場合などは、入院中に病院のソーシャルワーカーと地域包括支援センターが連携して準備を進めてくれることもあります。
認定結果が出たらどうする?
通知される結果は、自立・要支援1~2・要介護1~5のいずれかです。
- 要支援1・2と認定された場合
- 介護予防サービスを利用できます。お住まいの地域の「地域包括支援センター」に連絡し、介護予防ケアプランの作成を依頼します。
- 要介護1~5と認定された場合
- 介護サービスを利用できます。居宅介護支援事業者を選び、所属するケアマネジャーにケアプランの作成を依頼します。
- 非該当 (自立) と判定された場合
- 介護保険のサービスは利用できません。しかし、市区町村が独自に行う高齢者支援サービスを利用できる場合があります。
結果に納得できない場合の対応
認定結果が「思っていたより軽い」と感じた場合、主に2つの対応方法があります。
1. 区分変更申請をする(おすすめ)
心身の状態が変わった場合に、認定の見直しを求める申請です。認定結果に納得できない場合にもよく使われます。
- いつでも申請可能
- 新たに認定調査が行われる
- 結果が出るまで約1ヶ月
- 変更が認められれば、申請日に遡って新しい介護度が適用される
区分変更申請を行う際は、前回の調査で伝えきれなかった情報をしっかり準備しておきましょう。
2. 審査請求(不服申し立て)をする
認定結果に法的な不服がある場合に、都道府県の「介護保険審査会」に対して行う申し立てです。
- 通知を受け取った日の翌日から3ヶ月以内に申請
- 審査に時間がかかる(数ヶ月かかることも)
- 認められるケースは多くない
一般的には、まず区分変更申請を検討することをおすすめします。担当のケアマネジャーや地域包括支援センターに相談しながら進めましょう。
ケアマネジャーや事業所の探し方
事業所やケアマネジャーを探す際は、厚生労働省の介護サービス情報公表システムが便利です。
全国の介護事業所を検索でき、サービス内容や空き状況なども確認できます。
ケアマネジャー選びのポイント
- 地域包括支援センターに相談する
地域の事業者に詳しいスタッフが、状況に合った事業者を紹介してくれます - 複数の事業者を比較する
最初から1社に決めず、2〜3社に話を聞いてみましょう。担当者との相性も大切です - 病院のソーシャルワーカーに聞く
入院中の場合、退院後の生活を見据えた事業者を紹介してもらえることがあります - 知人や近所の評判を参考にする
実際に利用している方の話は参考になります
ケアマネジャーは変更することも可能です。「合わないかも」と感じたら、地域包括支援センターに相談しましょう。
よくある質問 (Q&A)
Q. 申請は本人以外でもできますか?
A. はい、できます。
家族や、成年後見人、地域包括支援センター、ケアプラン作成事業者などに代行してもらうことが可能です。
Q. 認定調査や主治医意見書に費用はかかりますか?
A. 認定調査の費用や主治医意見書の作成料は、市区町村が負担するため、申請者の負担はありません。
ただし、サービス利用開始後は、介護度に応じた自己負担額が発生します。
Q. 介護保険料を滞納している場合、申請できませんか?
A. 申請は可能ですが、保険料の滞納期間によっては、サービス利用時に「給付制限」が適用される場合があります。
滞納がある場合は、申請時に窓口で相談しましょう。
分割納付などの相談に応じてもらえる場合があります。
Q. 親が入院中 (または遠隔地に居住) ですが、申請できますか?
A. はい、できます。
申請は住民票のある市区町村で行う必要がありますが、認定調査は入院中の病院や、家族が一時的に滞在している場所でも受けることが可能です。
Q. 認定に30日以上かかることはありますか?
A. あります。
原則は申請から30日以内とされていますが、主治医意見書の作成が遅れたり、審査会の開催スケジュールによっては1〜2ヶ月かかることもあります。
急ぎの場合は、暫定ケアプランでサービスを開始することを検討しましょう。
Q. 認定結果が思ったより軽かった場合はどうすればいいですか?
A. 区分変更申請を行うことで、再度認定調査を受けることができます。
前回の調査で伝えきれなかった情報を整理し、家族が立ち会って具体的な困りごとを伝えましょう。
Q. 要介護認定を受けることにデメリットはありますか?
A. 基本的にデメリットはありません。
認定を受けたからといって、必ずサービスを使わなければならないわけではなく、認定があること自体で不利益を受けることもありません。
「備え」として認定を受けておく方も多くいらっしゃいます。
Q. 認定期間はどのくらいですか?介護保険の更新手続きは必要ですか?
A. 新規申請の場合、原則6ヶ月間有効です(状況により3〜12ヶ月)。
更新認定後は原則12ヶ月間有効(最長48ヶ月)となります。
有効期間が切れる前に更新申請が必要です。
更新申請は有効期限の60日前から可能で、期限の約2ヶ月前に市区町村からお知らせが届きます。
届いたら早めに手続きを行いましょう。
まとめ
介護保険の申請は、聞き慣れない言葉も多く、少し複雑に感じるかもしれません。
しかし、大切なのは、いざという時のために「まずはお住まいの市区町村の窓口か地域包括支援センターに相談する」ということを覚えておくだけでも、心の負担が大きく変わるということです。
この記事が、あなたとご家族にとって、より良い一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。