傷病手当受給中の退職後〜源泉徴収票・確定申告・住民税
傷病手当金を受け取りながら休職し、復職できずに退職する。
そんなとき、通常の退職とは違う手続きの疑問が次々と出てきます。
「源泉徴収票の金額が0円なのは間違い?」
「確定申告は必要なの?」
「収入は傷病手当金だけなのに、社会保険料や住民税は払うの?」
傷病手当金は非課税という特別な性質があるため、税金や保険の手続きで混乱しやすいのが実情です。
この手続きガイドでは、傷病手当受給中に退職する場合の源泉徴収票・確定申告・社会保険料・住民税の扱いを、退職後も傷病手当金をもらい続けられる条件とあわせて整理します。
傷病手当受給中の退職で押さえる4つのポイント
体調が優れない中で退職すると、税金・保険・年金の手続きが一度に押し寄せて、何から手をつければよいか分からなくなりがちです。
まずは全体像をつかみましょう。
傷病手当金を受給しながら退職する場合、特に次の4点が通常の退職と違ってきます。
- 退職後も傷病手当金を受け取れる場合がある
一定の条件を満たせば、退職して会社の健康保険を抜けた後も、残りの期間の傷病手当金を受け取れます(継続給付)。 - 源泉徴収票の支払金額が0円や少額になる
傷病手当金は非課税で給与ではないため、源泉徴収票には含まれません。 - 確定申告で税金が戻ることがある
年の途中で退職すると年末調整が行われないため、確定申告をすると源泉徴収された所得税が還付される場合があります。 - 社会保険料・住民税は自分で払う必要がある
傷病手当金そのものは非課税でも、健康保険・年金・住民税の支払い義務は別に残ります。
| 項目 | 通常の退職 | 傷病手当受給中の退職 |
|---|---|---|
| 退職後の収入保障 | なし(失業保険など) | 継続給付で傷病手当金が続く場合あり |
| 源泉徴収票 | 給与額が記載される | 給与がなければ支払金額0円のことも |
| 確定申告 | 年末調整未了なら還付の可能性 | 同左(傷病手当金自体は申告不要) |
| 健康保険 | 任意継続・国保・扶養から選択 | 同左(継続給付の受給は可能) |
| 住民税 | 前年所得ベースで支払い | 同左(傷病手当金は翌年度に影響なし) |
次の章から、それぞれを順番に見ていきます。
退職後も傷病手当金は受け取れる(継続給付の条件)
「会社を辞めたら傷病手当金も止まってしまうのでは?」と心配する方は多いですが、一定の条件を満たせば、退職後も残りの期間について傷病手当金を受け取り続けられます。
これを「資格喪失後の継続給付」といいます。
継続給付を受けられる2つの条件
協会けんぽによると、退職後も継続して傷病手当金を受けるには、次の2点をどちらも満たす必要があります。
- 退職日までに継続して1年以上の被保険者期間があること
退職日の前日までに、健康保険の被保険者期間が継続して1年以上あることが必要です。
なお、任意継続被保険者・共済組合・国民健康保険に加入していた期間は、この1年に含まれません。 - 資格喪失時に傷病手当金を受けているか、受けられる状態であること
退職日の時点で傷病手当金を実際に受けているか、または受けられる条件(労務不能など)を満たしている必要があります。
退職日に出勤してしまうと「労務不能」と認められず、継続給付の条件を満たさなくなります。
その結果、退職日の翌日以降の傷病手当金は支給されません。
有給消化や挨拶のためであっても、退職日は出勤しないよう注意してください。
いつまで受け取れるか(支給期間)
傷病手当金が受け取れる期間は、同一の病気やケガについて、支給を開始した日から通算して1年6ヵ月です。
退職前に受給を始めていれば、その期間を含めて通算1年6ヵ月までが対象になります。
途中で復職して給与が支払われた期間などは、通算の対象から除かれます。
2022年1月から、支給期間が「支給開始日から1年6ヵ月」ではなく「通算1年6ヵ月」に変わりました。
途中で出勤して給与が出た日があれば、その分だけ受給できる期間が先に延びる計算になります。
注意したいケース
退職後の継続給付には、いくつか落とし穴があります。
- 老齢年金を受け取り始めると原則支給停止
資格喪失後の継続給付を受けている人が老齢厚生年金などの受給者になると、傷病手当金は原則支給されません。
ただし、年金の日額が傷病手当金の日額より低い場合は、その差額が支給されます。 - 任意継続では新たに傷病手当金をもらえない
退職後に任意継続被保険者になっても、新規に傷病手当金を受けることはできません。
あくまで在職中から続いている継続給付のみが対象です。
傷病手当金の受給条件や申請書の書き方そのものについては、次の手続きガイドで詳しく解説しています。
源泉徴収票はどうなる?支払金額が0円でも正常
退職した会社から届く源泉徴収票を見て、「支払金額が0円」「思ったより金額が少ない」と不安になる方が少なくありません。
これは傷病手当金の性質を理解すれば、戸惑う必要のないものです。
傷病手当金は源泉徴収票に含まれない
国税庁によると、傷病手当金は非課税所得であり、所得税は課されません。
源泉徴収票は「給与所得」を記載する書類です。
傷病手当金は会社が支払う給与ではなく、健康保険(協会けんぽや健康保険組合)から支払われる給付金のため、源泉徴収票の支払金額には含まれません。
そのため、1年間ずっと休職して給与の支払いがなかった場合は、源泉徴収票の支払金額が0円・源泉徴収税額が0円になることもあります。
これは間違いではなく、正常な状態です。
休職前に給与を受け取っていた月があれば、その分は支払金額に記載されます。
「給与が出ていた期間の分だけが記載され、傷病手当金は含まれない」と理解しておきましょう。
給与所得に傷病手当金が含まれていたら確認を
まれに、会社の処理ミスで傷病手当金が給与所得の支払金額に含まれてしまうことがあります。
本来は含まれないものなので、源泉徴収票の金額に傷病手当金が混ざっていると感じたら、勤務先(または事業主)に確認し、必要に応じて訂正してもらいましょう。
誤ったまま放置すると、課税対象外のはずの傷病手当金にまで税金がかかってしまう可能性があります。
退職時は源泉徴収票を必ず受け取る
退職後に確定申告をする場合、その年の給与分の源泉徴収票が必要になります。
退職時または退職後1ヵ月以内をめどに、会社から源泉徴収票を受け取りましょう。
なかなか届かない場合は、勤務先に発行を依頼してください。
給与の支払金額が0円でも、給与から天引きされた社会保険料が「社会保険料等の金額」欄に記載されていることがあります。
この金額は確定申告や年末調整で控除に使えるため、源泉徴収票は捨てずに保管してください。
確定申告は必要?不要なケースと還付が受けられるケース
傷病手当金を受給していると「確定申告はどうすればいい?」と迷いがちです。
結論から言うと、傷病手当金そのものについて確定申告をする必要はありません。
ただし、状況によっては確定申告をすると税金が戻ってくる(還付される)ことがあります。
傷病手当金自体は申告不要
傷病手当金は非課税所得のため、いくら受け取っても所得税・住民税の課税対象にはなりません。
確定申告書に傷病手当金の額を記入する必要もありません。
「傷病手当金をもらったから確定申告しなければならない」ということはない、と覚えておきましょう。
確定申告で還付が受けられるケース
一方で、次のような場合は確定申告をすると源泉徴収された所得税が戻る可能性があります。
| ケース | 確定申告の効果 |
|---|---|
| 年の途中で退職し年末調整を受けていない | 給与から源泉徴収された所得税が精算され、還付される場合がある |
| 退職後に国民健康保険料・国民年金保険料を自分で払った | 社会保険料控除で課税所得が減り、還付につながる |
| 1年間の医療費が高額だった | 医療費控除で還付を受けられる場合がある |
| 生命保険料・地震保険料を払っている | 各種保険料控除が使える |
特に、年の途中で退職して再就職していない場合は、年末調整が行われていません。
退職までの給与から所得税が源泉徴収されていれば、確定申告で払いすぎた分が戻ってくることがあります。
その年に給与所得がまったくなく、所得税を源泉徴収されていない場合は、確定申告をしても戻る所得税はありません。
ただし、その年に支払った国民健康保険料などは、確定申告で記録を残しておくと住民税の計算に反映されることがあります。
控除に使う証明書類を準備する
退職後に自分で払った社会保険料を控除に使うには、支払いを証明できる書類が必要です。
- 国民年金保険料
日本年金機構から送られてくる「社会保険料(国民年金保険料)控除証明書」を使います。
毎年11月ごろに郵送されます。 - 国民健康保険料
自治体によって扱いが異なり、納付額のわかる通知書や領収書を用意します。
証明書が発行されない自治体もあるため、納付書や口座引き落としの記録を保管しておきましょう。
退職時に受け取った源泉徴収票とあわせて、これらの書類を確定申告まで保管しておくとスムーズです。
申告の時期
確定申告は、原則として退職した年の翌年2月16日から3月15日までの間に行います。
ただし、還付を受けるための申告(還付申告)は、その年の翌年1月1日から5年間いつでも提出できます。
体調が優れず期間中に申告できなくても、後から還付申告が可能です。
退職後の手続き全体の流れや期限は、次の手続きガイドにまとめています。
社会保険料(健康保険・年金)の扱い
退職すると、会社の健康保険と厚生年金の資格を失います。
傷病手当金を受け取っていても、健康保険と年金の手続きは自分で行う必要があります。
退職後の健康保険は3つの選択肢
退職後の健康保険は、次の3つから選びます。
- 任意継続被保険者になる
退職前の健康保険を最長2年間続ける方法です。
退職日までに継続して2か月以上の被保険者期間があり、退職日の翌日から20日以内に手続きすることが条件です。
保険料は退職前に天引きされていた額の約2倍(上限あり)になります。 - 国民健康保険に加入する
お住まいの市区町村の窓口で加入します。
保険料は前年の所得をもとに計算されるため、退職前の収入によっては高くなることがあります。 - 家族の扶養に入る
配偶者や家族の健康保険の被扶養者になる方法です。
保険料の負担がなくなりますが、収入要件があります。
傷病手当金を継続給付で受け取っている場合、その金額が被扶養者の収入とみなされます。
受給日額が3,611円以上(年収換算で130万円以上)だと、家族の健康保険の扶養に入れないのが一般的です。
扶養を検討する場合は、傷病手当金の日額を確認しておきましょう。
どの選択肢が有利かは、前年の所得や家族構成によって変わります。
保険料を比較して選びたい場合は、次の手続きガイドが参考になります。
年金は国民年金へ切り替え
退職すると厚生年金から外れ、国民年金の第1号被保険者になります。
お住まいの市区町村の窓口で切り替え手続きを行いましょう。
収入が傷病手当金だけで保険料の納付が難しい場合は、国民年金保険料の免除・納付猶予制度を利用できることがあります。
傷病手当金は非課税で「所得」に含まれないため、退職後の国民年金保険料の免除審査では有利に働くことがあります。
納付が苦しいときは、市区町村の窓口や年金事務所に相談してみましょう。
休職中の社会保険料の精算
休職中は給与の支払いがないため、給与から社会保険料を天引きできません。
そのため、会社が立て替えておき、後から本人が会社に振り込んで精算する運用が一般的です。
退職時に未精算分が残っていないか、会社に確認しておきましょう。
住民税の扱いと支払い方法
「無職で収入は傷病手当金だけなのに、住民税の納付書が届いた」という声は多く聞かれます。
これは住民税の仕組みによるものです。
住民税は前年所得ベースの後払い
住民税は、前年(1月〜12月)の所得をもとに計算され、翌年6月から納付する後払いの税金です。
つまり、退職して収入が傷病手当金だけになっても、退職前に給与所得があれば、その分の住民税を支払う義務が残ります。
傷病手当金は非課税のため、翌年度の住民税の計算には影響しません。
しかし、それ以前の給与所得に対する住民税は、無職であっても納める必要があるのです。
退職時の支払い方法
退職するタイミングによって、住民税の支払い方法が変わります。
- 一括徴収
退職時に、残りの住民税をまとめて最後の給与や退職金から天引きしてもらう方法です。
1月〜5月に退職する場合は、原則として一括徴収されます。 - 普通徴収に切り替え
退職後は、市区町村から送られてくる納付書で自分で納める普通徴収に切り替わります。
6月〜12月に退職する場合は、原則として普通徴収になります。
6月〜12月の退職でも、本人が希望すれば残りの住民税を最後の給与や退職金から一括徴収してもらうことができます。
また、転職先が決まっている場合は、手続きをすれば転職先で特別徴収を続けることも可能です。
支払いが難しいときは相談を
収入が傷病手当金だけで住民税の納付が苦しい場合は、市区町村の窓口で減免や徴収猶予、分割納付を相談できることがあります。
放置すると延滞金が発生したり、財産の差し押さえにつながったりするため、早めに相談しましょう。
住民税の詳しい支払い方法や軽減策は、次の手続きガイドで解説しています。
受給期間満了後は失業保険へ(受給期間の延長)
傷病手当金の支給が通算1年6ヵ月で終わった後、まだ働けない、あるいは回復して求職活動を始める場合は、失業保険(雇用保険の基本手当)への切り替えを検討します。
ここで注意したいのが、傷病手当金と失業保険は同時に受け取れないという点です。
失業保険は「働ける状態で求職活動をしている人」が対象のため、療養中で働けない間は受給できません。
そこで、退職後すぐに「受給期間の延長」を申請しておき、回復して働けるようになってから失業保険を受け取る流れになります。
受給期間の延長は、病気やケガで働くことができない状態が30日以上続いた場合に申請でき、本来1年の受給期間を最長で離職日の翌日から4年まで延ばせます。
失業保険は原則として離職日の翌日から1年間が受給期間です。
療養で働けない間にこの期間が過ぎると、受給できなくなってしまいます。
退職後はできるだけ早く、ハローワークで受給期間延長の手続きをしておきましょう。
傷病手当金から失業保険への切り替えの具体的な手順は、次の手続きガイドで詳しく解説しています。
よくある質問(FAQ)
Q. 退職後に傷病手当金を申請するとき、源泉徴収票は必要ですか?
A. 傷病手当金の申請自体に源泉徴収票は必要ありません。
傷病手当金支給申請書には、被保険者・事業主・主治医の記入欄があります。
退職後の継続給付の申請では、退職後の期間は事業主の証明が不要になるなど、在職中とは記入の扱いが一部変わります。
源泉徴収票は確定申告で使う書類であり、傷病手当金の申請書とは別のものと考えてください。
Q. 傷病手当金をもらっていると、配偶者の扶養や配偶者控除は受けられませんか?
A. 健康保険の扶養と税金の配偶者控除は別の制度です。
健康保険の被扶養者になれるかどうかは、傷病手当金を含む収入で判断され、受給日額3,611円以上だと扶養に入れないのが一般的です。
一方、税金の配偶者控除・配偶者特別控除は、非課税の傷病手当金を収入に含めずに判定します。
健康保険の扶養に入れなくても、税金の配偶者控除は受けられる場合があるため、混同しないようにしましょう。
Q. 無職で収入が傷病手当金だけでも、住民税は払うのですか?
A. 前年に給与所得があれば、原則として支払う必要があります。
住民税は前年の所得に対して課税される後払いの税金です。
退職して無職になっても、前年に働いて給与を得ていれば、その分の住民税の納付義務が残ります。
傷病手当金は非課税のため、翌年度以降の住民税には影響しませんが、過去の所得分は納める必要があります。
Q. 傷病手当金は確定申告書のどこに記入しますか?
A. 記入する必要はありません。
傷病手当金は非課税所得のため、確定申告書の収入や所得の欄に記入しません。
医療費控除や社会保険料控除などのために確定申告をする場合も、傷病手当金の額は申告書に含めなくてよいものです。
Q. 退職後の健康保険料や国民年金は減免できますか?
A. 状況によっては軽減・免除を受けられます。
国民健康保険料は、所得が低い世帯への軽減制度があります。
国民年金保険料も、所得が一定以下なら免除や納付猶予の対象になることがあります。
傷病手当金は非課税で所得に含まれないため、これらの審査で有利になる場合があります。
詳しくはお住まいの市区町村の窓口や年金事務所に相談してください。
まとめ
傷病手当受給中に退職する場合、傷病手当金が非課税であることを軸に手続きを整理すると、混乱を避けられます。
最後に要点を確認しておきましょう。
- 継続給付
退職日までに継続1年以上の被保険者期間があり、退職時に受給中(または受給条件を満たす)なら、退職後も通算1年6ヵ月まで受け取れます。 退職日は出勤しないことが条件です。 - 源泉徴収票
傷病手当金は非課税で給与ではないため記載されません。 支払金額0円でも正常です。 - 確定申告
傷病手当金自体は申告不要です。 年の途中退職で年末調整未了の場合や、社会保険料控除・医療費控除があると還付の可能性があります。 - 社会保険料
健康保険は任意継続・国保・扶養から選び、年金は国民年金へ切り替えます。 納付が苦しいときは免除・軽減制度を相談しましょう。 - 住民税
前年所得ベースの後払いのため、無職でも前年の給与分は支払う必要があります。
体調が優れない中での手続きは負担が大きいものです。
一度にすべてを完璧にこなそうとせず、期限のあるもの(健康保険の任意継続は20日以内、失業保険の受給期間延長など)から優先して進めていきましょう。