相続税が払えない場合の対処法 - 延納・物納・株式売却の手続き
「遺産の大半が株や不動産で、相続税を払う現金が手元にない…」
「10ヶ月以内に納付しないといけないのに、どうすればいいの?」
「払えないまま放置したら差し押さえされる?」
相続税は原則として現金で一括納付しなければなりませんが、遺産が金融資産や不動産中心で現金が不足するケースは珍しくありません。
この手続きガイドでは、相続税が払えない場合の4つの対処法(金融資産の売却・延納・物納・借入)の条件と手続きを解説します。
1. 相続税の納付ルールをおさらい
まず、相続税の納付に関する基本ルールを確認しておきましょう。
1-1. 申告・納付期限は10ヶ月
相続税の申告・納付期限は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。
たとえば4月15日に亡くなった場合、翌年2月15日が申告・納付期限となります。
期限内に申告しないと「無申告加算税」、納付が遅れると「延滞税」が課されます。
延滞税は納期限の翌日から2ヶ月以内で年2.8%(令和8年の特例割合)、2ヶ月を超えると年9.1%(同)が課されます。
さらに放置すると預金や不動産の差し押さえに進む可能性があります。
1-2. 原則は金銭での一括納付
相続税は原則として金銭(現金)で一括納付します。
クレジットカードやインターネットバンキングでの納付も可能ですが、いずれにしても「お金で一度に払う」のが原則です。
1-3. 連帯納付義務がある
相続税には連帯納付義務があります。
ある相続人が自分の相続税を納付できない場合、他の相続人が代わりに納付する義務を負うことがあります。
つまり、自分が払えないだけでなく、他の相続人にも迷惑がかかる可能性があるのです。
なお、連帯納付義務は申告期限から5年を経過すると原則として消滅します。
1-4. 相続税の手続きスケジュールを確認しよう
相続が発生すると、相続税以外にもさまざまな期限があります。
以下のツールに被相続人が亡くなった日を入力して、各手続きの期限を確認しましょう。
2. 相続税が払えない場合の4つの対処法
相続税を一括で払う現金がない場合、主に4つの対処法があります。
| 対処法 | 概要 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| 金融資産の売却 | 株・投資信託・債券を売却して現金化 | すぐに納税資金を確保できる | 売却益に所得税がかかる |
| 延納(分割払い) | 税務署に申請して年払いで分割納付 | 手元の資産を維持できる | 利子税がかかる・担保が必要 |
| 物納 | 相続財産をそのまま国に納付 | 現金が不要 | 条件が厳しい・評価額で収納 |
| 金融機関からの借入 | 相続財産を担保に融資を受ける | 返済方法の柔軟性が高い | 金利負担・審査がある |
一般的には、まず金融資産の売却で納税資金を作ることを検討します。
売却しても足りない場合や、資産を手放したくない場合に延納を検討します。
延納でも払えない場合に初めて物納が選択肢になります。
物納は「延納でも金銭で納付することが困難な場合」にのみ認められるため、最終手段と考えてください。
3. 対処法1: 金融資産(株・投資信託・債券)を売却して納税資金を作る
遺産に含まれる上場株式・投資信託・債券などの金融資産を売却して、現金化する方法です。
最も一般的な対処法であり、多くの場合はこの方法で納税資金を確保できます。
3-1. 売却までの流れ
- 遺産分割協議で金融資産の相続人を決定する
相続人全員で、誰がどの資産を相続するかを協議します。 - 証券口座の名義変更(移管)手続きを行う
被相続人の証券口座から、相続人の証券口座へ株式等を移管します。 - 相続人名義の口座で株式等を売却する
証券会社を通じて市場で売却し、現金化します。 - 売却代金で相続税を納付する
納付期限(10ヶ月以内)までに税務署へ納付します。 - 確定申告を行う
売却益が出た場合は、翌年2月16日〜3月15日に確定申告が必要です。
証券口座の名義変更(移管)には、証券会社によって2週間〜1ヶ月程度かかることがあります。
遺産分割協議が長引くと、売却のタイミングを逃す可能性もあります。
納付期限から逆算して、早めに手続きを進めましょう。
3-2. 相続した株式の評価方法
相続税を計算する際、上場株式の評価額は以下の4つのうち最も低い価額が採用されます。
- 死亡日の終値
- 死亡日の属する月の毎日の終値の平均額
- 死亡日の前月の毎日の終値の平均額
- 死亡日の前々月の毎日の終値の平均額
株価は日々変動するため、相続税の計算では相続人に有利な(=低い)評価額が自動的に採用されます。
ただし、実際に売却する時点の株価は異なる可能性があるため、注意が必要です。
3-3. 取得費加算の特例で税負担を軽減
相続した株式を売却すると、売却益(譲渡所得)に対して約20%(所得税15.315% + 住民税5%)の税金がかかります。
しかし、取得費加算の特例を利用すれば、この税負担を軽減できます。
取得費加算の特例とは
相続で取得した財産を売却する際に、支払った相続税の一部を取得費(購入コスト)に上乗せできる制度です。
取得費が増えるため、譲渡所得が減り、結果として所得税・住民税が安くなります。
適用の3つの要件
- 相続または遺贈により財産を取得した人であること
- その財産を取得した人に相続税が課税されていること
- 相続開始の翌日から3年10ヶ月以内に売却していること
手続き方法
売却した翌年の確定申告で、「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」を添付して申告します。
詳しくは国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」を確認してください。
取得費加算の特例は、相続開始の翌日から3年10ヶ月以内に売却した場合にのみ適用されます。
この期限を過ぎると特例は使えなくなり、税負担が大きくなります。
できるだけ早めに売却を検討しましょう。
3-4. 売却時の注意点
- 売却益に対する所得税・住民税(約20%)
取得費加算の特例を使っても、売却益が残れば課税されます。 - 国民健康保険料への影響
売却益が所得に加算されるため、翌年の国民健康保険料が上がる可能性があります。 - 市場の変動リスク
売却を検討している間に株価が下落すると、想定していた金額を確保できないことがあります。 - 特定口座(源泉徴収あり)でも確定申告が必要な場合がある
取得費加算の特例を使うためには、確定申告を行う必要があります。
4. 対処法2: 延納(分割払い)の条件と手続き
延納とは、相続税を年払いで分割して納付する制度です。
一括で払えない場合に、税務署長の許可を受けて最長20年にわたって分割払いができます。
ただし、分割期間中は利子税がかかります。
詳しくは国税庁「No.4211 相続税の延納」を確認してください。
4-1. 延納が認められる4つの要件
延納を申請するには、以下の4つの要件すべてを満たす必要があります。
- 相続税額が10万円を超えていること
10万円以下の場合は延納の対象外です。 - 金銭で一括納付することが困難な事由があること
かつ、その納付困難な金額の範囲内での延納に限られます。 - 延納税額と利子税に相当する担保を提供すること
ただし、延納税額が100万円以下かつ延納期間が3年以下なら担保は不要です。 - 納付期限までに延納申請書と担保提供関係書類を税務署長に提出すること
相続税の申告期限と同じ日が延納申請の期限です。
延納は「払えないから後で申請しよう」というものではありません。
相続税の申告期限(10ヶ月以内)までに、延納申請書を提出する必要があります。
期限を過ぎると延納は一切認められません。
4-2. 延納の期間と利子税
延納ができる期間と利子税の割合は、相続財産に占める不動産等の割合によって変わります。
以下は令和8年1月1日現在の延納特例基準割合(1.3%)に基づく特例割合です。
| 区分 | 延納期間(最長) | 利子税割合(年) | 特例割合(年) |
|---|---|---|---|
| 不動産等75%以上:動産等に係る部分 | 10年 | 5.4% | 0.9% |
| 不動産等75%以上:不動産等に係る部分 | 20年 | 3.6% | 0.6% |
| 不動産等50〜75%:動産等に係る部分 | 10年 | 5.4% | 0.9% |
| 不動産等50〜75%:不動産等に係る部分 | 15年 | 3.6% | 0.6% |
| 不動産等50%未満:一般 | 5年 | 6.0% | 1.0% |
本来の利子税割合は3.6〜6.0%ですが、低金利の影響で特例割合が適用され、実質0.6〜1.0%と非常に低い負担で延納できます。
ただし、この割合は毎年変動する可能性があります。
4-3. 延納の利子税シミュレーション
延納を利用した場合の利子税の目安を確認してみましょう。
4-4. 担保として提供できる財産
延納の担保として認められる財産は以下のとおりです。
- 国債および地方債
- 社債その他の有価証券(税務署長が確実と認めるもの)
- 土地
- 建物、立木、登記される船舶など(保険に附したもの)
- 税務署長が確実と認める保証人の保証
相続で取得した財産だけでなく、相続人自身の財産や第三者が所有する財産も担保にできます。
4-5. 延納申請の流れ
- 金銭納付困難理由書を作成する
手持ちの現金や預金、今後の収入見込みなどから、一括納付が困難であることを証明します。 - 延納申請書を作成する
延納を希望する税額、延納期間、分納の方法などを記載します。 - 担保提供関係書類を準備する
担保とする財産の種類に応じた書類(不動産の登記事項証明書など)を用意します。 - 申告期限までに税務署長に提出する
延納申請書と担保提供関係書類をあわせて提出します。 - 税務署の審査を受ける
提出から3ヶ月以内(最長6ヶ月)に許可または却下の通知が届きます。
申告期限までに担保提供関係書類を用意できない場合は、「担保提供関係書類提出期限延長届出書」を提出することで、1回につき3ヶ月、最長6ヶ月まで提出期限を延長できます。
5. 対処法3: 物納(相続財産で納付)の条件と手続き
物納とは、相続財産そのもの(不動産や株式など)を国に納付して相続税を払う制度です。
延納(分割払い)を使っても金銭で納付できない場合に限り、認められます。
詳しくは国税庁「No.4214 相続税の物納」を確認してください。
5-1. 物納が認められる4つの要件
物納を申請するには、以下の4つの要件すべてを満たす必要があります。
- 延納によっても金銭で納付することが困難な事由があること
物納はあくまで最終手段です。まず延納を検討したうえで、それでも困難な場合に限られます。 - 物納に充てる財産が日本国内にある相続財産で、決められた順位に従うこと
物納できる財産には順位があり、自由に選べるわけではありません。 - 管理処分不適格財産に該当しないこと
国が管理・処分できない財産は物納に充てられません。 - 納付期限までに物納申請書と物納手続関係書類を税務署長に提出すること
延納と同様、申告期限が申請期限です。
5-2. 物納に充てられる財産の順位
物納に充てられる財産には優先順位があります。
原則として上位の財産から充てる必要があり、下位の財産は上位に適当なものがない場合に限り使えます。
| 順位 | 物納に充てられる財産 |
|---|---|
| 第1順位 | 不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等 |
| 第2順位 | 非上場株式等 |
| 第3順位 | 動産 |
上場株式は不動産や国債と同じ第1順位に位置づけられています。
つまり、保有している上場株式をそのまま国に納めることで、相続税を払うことができます。
ただし、収納価額は相続税評価額(時価ではない)で計算されます。
5-3. 物納できない財産(管理処分不適格財産)
以下のような財産は、国が管理・処分できないため物納に充てることができません。
- 不動産の場合
担保権が設定されている不動産、境界が不明な土地、共有不動産、耐用年数を経過した建物(通常使用可能なものを除く)など - 株式の場合
譲渡制限株式、担保権の目的となっている株式、権利の帰属に争いがある株式など
5-4. 収納価額の注意点
物納財産の収納価額は、相続税の課税価格計算の基礎となった価額(=相続税評価額)です。
これは売却した場合の時価(市場価格)とは異なる場合があります。
特に、小規模宅地等の特例を適用した土地を物納する場合、特例適用後の減額された価額で収納されるため、不利になることがあります。
5-5. 物納申請後の審査
物納申請書を提出すると、税務署長は3ヶ月以内(最長9ヶ月)に許可または却下を行います。
却下された場合は、却下の日の翌日から20日以内に、他の財産で1回に限り再申請が可能です。
申告期限までに物納手続関係書類を用意できない場合は、「物納手続関係書類提出期限延長届出書」を提出することで、1回につき3ヶ月、最長1年まで提出期限を延長できます。
6. 対処法4: 金融機関からの借入
相続財産を担保にして、金融機関(銀行など)から融資を受け、その資金で相続税を納付する方法です。
6-1. メリット
- 延納より返済方法が柔軟
元利均等返済など、自分に合った返済プランを選べます。 - 資産を手放さなくてよい
不動産や株式を維持したまま納税資金を確保できます。
6-2. デメリット
- 金利がかかる
金融機関の金利は延納の利子税よりも高い場合があります。 - 審査がある
融資には審査があり、必ず借りられるとは限りません。 - 担保が必要
相続財産(不動産など)を担保に差し入れる必要があります。
7. 放置するとどうなる?滞納のペナルティ
相続税を期限内に納付しないと、以下のペナルティが発生します。
7-1. 延滞税が加算される
| 期間 | 法定割合 | 令和8年の特例割合 |
|---|---|---|
| 納期限の翌日から2ヶ月以内 | 年7.3% | 年2.8% |
| 2ヶ月を超えた期間 | 年14.6% | 年9.1% |
延滞税は日割りで計算され、納付が遅れるほど増えていきます。
7-2. 督促状が届く
納期限を過ぎると税務署から督促状が送付されます。
督促状が届いた後も放置すると、次のステップに進みます。
7-3. 財産の差し押さえ
督促状を受け取っても納付しない場合、税務署は財産の差し押さえを行うことができます。
差し押さえの対象となる財産は以下のとおりです。
- 預金口座
- 不動産
- 給与
- 有価証券(株式・投資信託など)
差し押さえられた財産は最終的に公売(強制換金)され、相続税に充当されます。
相続税が払えないとわかった時点で、すぐに税務署に相談しましょう。
延納・物納の申請は申告期限(10ヶ月以内)までに行う必要があります。
期限を過ぎてからでは延納も物納も認められません。
8. 延納から物納への変更(特定物納制度)
延納の許可を受けた後に、返済が困難になった場合の救済措置として特定物納制度があります。
8-1. 特定物納の要件
- 延納条件を履行することが困難になったこと
- 申告期限から10年以内であること
- 分納期限が未到来の税額部分であること
8-2. 収納価額
特定物納の場合、収納価額は特定物納申請書を提出した時点の価額となります。
通常の物納(相続時の評価額)とは異なるため、注意が必要です。
よくある質問(FAQ)
Q. 相続税の申告期限までに遺産分割協議がまとまらない場合はどうする?
A. 「未分割」のまま法定相続分で申告・納付し、後で修正申告を行います。
遺産分割協議が10ヶ月以内にまとまらない場合でも、申告期限は延長されません。
いったん法定相続分で計算した相続税を申告・納付し、分割協議がまとまった後に修正申告(または更正の請求)を行います。
この際、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておくと、後から配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用できます。
Q. 延納中に繰上返済はできる?
A. はい、可能です。
延納の許可を受けた後でも、資金に余裕ができた場合は繰上返済(繰上納付)ができます。
繰上返済すれば、その分の利子税負担を抑えることができます。
Q. 株式を売却して相続税を払うと所得税もかかる?
A. はい、売却益が出た場合は所得税・住民税(約20%)がかかります。
ただし、「取得費加算の特例」を適用すれば、支払った相続税の一部を取得費に加算でき、譲渡所得を減らすことができます。
この特例を使うには、相続開始の翌日から3年10ヶ月以内に売却し、確定申告を行う必要があります。
Q. 相続放棄を検討した方がいいのはどんな場合?
A. 遺産全体がマイナス(借金が多い)の場合や、相続に関わりたくない場合です。
相続税が払えないからといって、すぐに相続放棄を選ぶ必要はありません。
延納・物納・資産売却で対処できる場合がほとんどです。
ただし、遺産の中に多額の借金がある場合や、遺産を受け取ること自体を望まない場合は、相続放棄を検討してもよいでしょう。
相続放棄の期限は相続開始を知った日から3ヶ月以内です。
まとめ
相続税が払えない場合の対処法を、改めて整理します。
| 対処法 | 条件 | 期限 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 金融資産の売却 | 特になし | 納付期限(10ヶ月)まで | 取得費加算の特例(3年10ヶ月以内)で税軽減 |
| 延納(分割払い) | 4つの要件を満たすこと | 申告期限までに申請 | 利子税は特例で年0.4〜0.7%と低水準 |
| 物納 | 延納でも困難な場合のみ | 申告期限までに申請 | 上場株式は第1順位で物納可能 |
| 金融機関からの借入 | 融資審査に通ること | 特になし | 返済方法の柔軟性あり |
相続税が払えないと焦っても、延納・物納・売却・借入といった選択肢があります。
大切なのは、申告期限(10ヶ月)の前に行動を起こすことです。
延納や物納の申請は期限を過ぎると一切認められません。
「払えないかもしれない」と思った時点で、早めに税務署や税理士に相談しましょう。