年金受給者の確定申告で損する?税金が増えるケースと判断基準
「医療費控除で税金が戻ると聞いて確定申告したのに、逆に4〜5万円も追加で払うことに…」
「ふるさと納税がお得だと思ってやったら、翌年の保険料がドンと上がった」
——年金受給者の方から、こうした声が数多く寄せられています。
実は年金受給者の多くは「確定申告不要制度」により、そもそも申告しなくてよいケースがほとんどです。
あえて申告すると所得税の還付を受けられる一方で、国民健康保険料や介護保険料が上がり、トータルで損をしてしまうことがあります。
この手続きガイドでは、確定申告で税金や保険料が増える仕組みを解説し、「申告すべきか・しないべきか」を判断するための具体的なチェックポイントを紹介します。
年金受給者の「確定申告不要制度」とは
年金受給者の申告負担を軽減するため、一定の条件を満たす方は所得税の確定申告が不要になる制度があります。
確定申告不要制度の条件
以下の2つの条件を両方とも満たす場合、所得税の確定申告は不要です。
- 公的年金等の収入金額の合計額が400万円以下
- 公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下
ほとんどの年金受給者がこの条件に該当し、確定申告をする義務はありません。
「公的年金等」には、国民年金・厚生年金・共済年金・企業年金(厚生年金基金、確定給付企業年金など)が含まれます。
個人年金保険の年金は含まれない点に注意してください。
「不要」でもあえて申告するケース
確定申告が不要でも、以下の目的であえて申告する方がいます。
- 医療費控除
年間10万円(所得200万円未満なら所得の5%)を超える医療費を支払った場合 - 生命保険料控除・地震保険料控除
年金からの源泉徴収で反映されていない控除がある場合 - ふるさと納税の寄附金控除
ワンストップ特例を使わない場合(6自治体以上に寄付したなど) - 社会保険料控除の追加
年金天引き以外で支払った国民健康保険料がある場合
これらの控除を適用することで所得税が還付される可能性がありますが、申告によって「合計所得金額」が変わると、翌年の保険料に影響するのが落とし穴です。
住民税の申告が必要な場合
確定申告不要制度はあくまで所得税の話です。
公的年金等に係る雑所得以外の所得(例: パート収入、家賃収入)がある場合は、住民税の申告が必要になることがあります。
お住まいの市区町村の窓口に確認してください。
確定申告で「税金が増える」仕組み
年金受給者が確定申告することで負担が増える最大の原因は、「合計所得金額」や「総所得金額等」が増えることにあります。
確定申告で新たに所得を申告すると、その情報をもとに以下の保険料・税額が再計算されます。
| 影響を受ける項目 | 計算の基準 | 影響のタイミング |
|---|---|---|
| 国民健康保険料 | 前年の総所得金額等 | 翌年6月〜 |
| 介護保険料(65歳以上) | 前年の合計所得金額 | 翌年4月〜 |
| 後期高齢者医療保険料 | 前年の総所得金額等 | 翌年4月〜 |
| 医療費の窓口負担割合 | 前年の課税所得 | 翌年8月〜 |
| 住民税 | 前年の総所得金額等 | 翌年6月〜 |
国民健康保険料が上がるケース
国民健康保険料(国保料)は、前年の「総所得金額等」から住民税の基礎控除額(43万円)を差し引いた金額に保険料率を掛けて算出されます。
確定申告によって総所得金額等が増えると、翌年度の国保料が上がります。
具体例
65歳の年金受給者で年金収入が250万円の場合を考えます。
- 申告しない場合
公的年金等控除110万円を差し引き、雑所得 = 140万円 - 株式配当30万円を確定申告した場合
雑所得140万円 + 配当所得30万円 = 総所得170万円
差額の30万円に対して国保料率(自治体により異なるが、所得割率は約7〜10%)が適用され、年間約2〜3万円の保険料増となります。
介護保険料が上がるケース
65歳以上の方の介護保険料は、前年の合計所得金額に応じて段階的に決まります。
多くの自治体では10〜15段階程度に分かれており、所得が少し増えただけで段階が上がり、年間数千円〜数万円の保険料増になることがあります。
所得段階の例(標準的な自治体)
| 段階 | 合計所得金額の基準 | 保険料の目安(年額) |
|---|---|---|
| 第5段階(基準) | 本人が住民税課税、合計所得80万円以下 | 約7万円 |
| 第6段階 | 合計所得80万円超〜120万円以下 | 約8万円 |
| 第7段階 | 合計所得120万円超〜200万円以下 | 約9万円 |
| 第8段階 | 合計所得200万円超〜300万円以下 | 約11万円 |
※ 金額・段階は自治体ごとに異なります。
確定申告で合計所得が段階の境界を超えると、一気に保険料が上がる可能性があります。
後期高齢者医療保険料・窓口負担が上がるケース
75歳以上の方は後期高齢者医療制度に加入しますが、保険料と窓口負担割合の両方が所得に連動します。
窓口負担割合の判定基準(2026年現在)
| 負担割合 | 判定条件 |
|---|---|
| 1割 | 課税所得28万円未満、または年金収入+その他の合計所得金額が200万円未満(単身世帯の場合) |
| 2割 | 課税所得28万円以上145万円未満 かつ 年金収入+その他の合計所得金額が200万円以上(単身)/320万円以上(複数世帯) |
| 3割 | 課税所得145万円以上 |
2割負担の判定には「課税所得」だけでなく「年金収入+その他の合計所得金額」の基準も満たす必要があります。
確定申告によってこれらの境界を超えると、窓口負担が1割→2割あるいは2割→3割に変わる可能性があります。
窓口負担が1割から2割に変わると、年間の医療費が数万円以上増えるケースもあります。
持病で定期的に通院している方は特に注意が必要です。
住民税が増えるケース
確定申告を行うと、その情報はお住まいの市区町村にも送られ、住民税の計算に使われます。
令和6年度(2024年度)の住民税からは、所得税と住民税で異なる課税方式を選択する制度が廃止されました。
以前は「所得税では総合課税で申告して還付を受け、住民税では申告不要を選択して保険料への影響を避ける」という方法が可能でしたが、現在この方法は使えません。
具体的に「損」するパターン
ふるさと納税で損するケース
年金受給者がふるさと納税で損をしやすい理由は、ワンストップ特例制度が使いにくい点にあります。
ワンストップ特例は以下のすべてを満たす必要があります。
- 確定申告が不要な方であること
- 寄付先が5自治体以内であること
- 他に確定申告をする理由がないこと
ところが、医療費控除など他の理由で確定申告すると、ワンストップ特例は無効になります。
この場合、ふるさと納税の寄附金控除も確定申告で申告することになり、結果として合計所得に影響が出ます。
ふるさと納税の寄附金控除自体は所得を「増やす」わけではありませんが、確定申告をすること自体が、源泉徴収で完結していた他の所得(配当など)を申告に乗せる契機になり得ます。
特に「ふるさと納税のために確定申告したら、源泉分離だった配当も合算された」というケースに注意してください。
配当金・株式譲渡益で損するケース
証券口座で「源泉徴収あり・特定口座」を選んでいる場合、配当金や売却益はすでに20.315%の税金が天引きされています。
この場合、確定申告しなければ合計所得には含まれません。
しかし、確定申告で配当控除を受けようとすると、配当所得が合計所得に加算され、以下のデメリットが生じます。
- 国民健康保険料が上がる
- 介護保険料が上がる
- 後期高齢者医療の窓口負担割合が上がる可能性
令和6年度からの課税方式統一の影響
以前は「所得税で総合課税、住民税で申告不要」と使い分けることで、配当控除のメリットだけを享受し、保険料への影響を避けられました。
しかし2024年度(令和6年度)の住民税からこの制度は廃止されています。
現在は確定申告すると住民税にも同じ課税方式が適用されるため、保険料への影響を完全に避けることはできません。
判断の目安
| 配当所得の金額 | 確定申告(総合課税) | 申告不要(源泉分離) |
|---|---|---|
| 少額(年20万円以下) | 還付は小さい。 保険料増のリスクの方が大きい場合が多い | 所得に加算されず保険料に影響なし |
| 高額(年100万円超) | 配当控除のメリットが大きい可能性あり。 ただし保険料増も大きい | 税率20.315%で完結。 保険料に影響なし |
配当金を確定申告すべきかは、課税所得の金額・保険料率・配当控除率の兼ね合いで決まります。
一概には言えないため、事前にシミュレーションすることを強くおすすめします。
医療費控除で損するケース
医療費控除は年金受給者にとって身近な控除ですが、還付額より保険料の増加額が大きいケースがあります。
損をしやすい具体例
- 所得税の税率が5%の方が、医療費控除15万円を申告した場合
- 所得税の還付額: 15万円 × 5% = 7,500円
- しかし合計所得が増えて介護保険料の段階が上がると、年間1万円以上の保険料増も
医療費控除は「所得金額から差し引く」ものなので、通常は合計所得を下げる効果があります。
問題になるのは、「確定申告不要だった人が、医療費控除のために申告した結果、年金以外の所得(配当など)も一緒に申告してしまう」ケースです。
確定申告した方がいいケース
逆に、確定申告をした方がトータルで得するケースもあります。
- 年金から源泉徴収されている所得税額が多い場合
扶養親族等申告書の提出忘れなどで源泉徴収額が多い場合、申告で還付が受けられる - 高額な医療費がかかり、かつ配当など他の所得がない場合
医療費控除だけの申告なら合計所得は下がるため、保険料が上がるリスクは低い - 扶養控除・配偶者控除が源泉徴収に反映されていない場合
「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」の提出を忘れた年など - 社会保険料控除をフルに反映したい場合
年金天引き以外で支払った国保料を控除に含められる - 住宅ローン控除や雑損控除を受ける場合
これらは年末調整で処理できないため確定申告が必要
申告前にやるべきシミュレーション
損得を判断するために、申告前に以下のシミュレーションを行いましょう。
ステップ1: 所得税の還付額を試算する
国税庁「確定申告書等作成コーナー」を使って、実際に申告書を作成してみましょう。
申告書作成の途中で還付額(または納付額)が表示されます。
提出せずに途中で中断すれば申告扱いにはなりませんので、まずは試算のつもりで入力してみてください。
ステップ2: 国民健康保険料の変動を確認する
以下の手順で概算できます。
- 確定申告をした場合の「総所得金額等」を計算する
- その金額から基礎控除43万円を差し引く
- お住まいの自治体の所得割率(通常7〜10%程度)を掛ける
- 申告しない場合の保険料との差額を確認する
ステップ3: 介護保険料の段階を確認する
お住まいの自治体の介護保険料の段階表を確認し、確定申告後の合計所得金額がどの段階に該当するかをチェックします。
段階が変わらなければ影響はありません。
ステップ4: 総合判断する
以下のチェックリストで最終判断を行います。
- 所得税の還付見込み額を確認した
- 国保料(または後期高齢者医療保険料)の増加見込み額を確認した
- 介護保険料の段階が変わるか確認した
- 窓口負担割合が変わらないか確認した
- 還付額 > 保険料等の増加額合計 であることを確認した
この最後の条件を満たさない場合は、確定申告をしない方がトータルで有利です。
よくある質問(FAQ)
Q. 確定申告不要制度を使える人が申告したらどうなりますか?
A. 申告は任意ですが、一度提出すると「申告しなかったこと」には戻せません。
確定申告不要制度の対象者が申告した場合、その申告内容に基づいて翌年の住民税・保険料が計算されます。
「やっぱり申告しなければよかった」と思っても、申告そのものの撤回はできません。
ただし、控除の追加漏れなどで税額を修正したい場合は、申告期限から5年以内であれば国税庁「更正の請求」の手続きで修正が可能です。
申告前に必ずシミュレーションを行ってください。
Q. 年金から天引きされている税金は確定申告で戻ってきますか?
A. 各種控除を適用して税額が下がれば、差額が還付されます。
年金からは所得税が源泉徴収されていますが、医療費控除や生命保険料控除などが反映されていない場合があります。
確定申告で控除を適用し、本来の税額が源泉徴収額より少なくなれば、差額が還付されます。
ただし、還付を受ける目的で申告すると保険料に影響する可能性があるため、総合的な損得を確認してから判断してください。
Q. ふるさと納税のワンストップ特例は年金受給者も使えますか?
A. 条件を満たせば使えます。
ワンストップ特例を使うには、以下の条件をすべて満たす必要があります。
- 寄付先が5自治体以内
- 確定申告をする必要がない(確定申告不要制度の対象者であること)
- 他の理由で確定申告をしない
医療費控除など他の理由で確定申告をすると、ワンストップ特例は自動的に無効になります。
その場合、ふるさと納税分も確定申告で申告する必要があります。
Q. 配当金の確定申告はした方がいいですか?
A. 年金受給者は「しない」方が有利なケースが多いです。
「源泉徴収あり・特定口座」を利用していれば、配当金の税金(20.315%)はすでに天引きされています。
確定申告しなければ合計所得に含まれないため、国保料・介護保険料への影響はありません。
2024年度からは住民税との課税方式統一により、以前可能だった「所得税のみ申告して住民税は申告不要」という方法も使えなくなりました。
配当控除のメリットが保険料増を上回るケースは限定的なので、迷ったら「申告しない」が無難です。
まとめ
年金受給者の確定申告は「申告すれば得」とは限りません。
以下のポイントを押さえて判断してください。
- 確定申告不要制度(年金400万円以下かつ他の所得20万円以下)に該当すれば、そもそも申告義務なし
- 申告すると国民健康保険料・介護保険料・後期高齢者医療保険料が上がる可能性がある
- 2024年度から所得税と住民税の課税方式統一により、以前の「いいとこ取り」はできなくなった
- ふるさと納税はワンストップ特例を使えば確定申告不要。5自治体以内なら特例活用がおすすめ
- 配当金は「源泉徴収あり・特定口座」のまま申告しない方が有利なケースが多い
- 還付額 > 保険料増加額になるかを事前にシミュレーションしてから判断する
迷ったら、まず国税庁の確定申告書等作成コーナーで還付額を試算し、お住まいの自治体の保険料率と照らし合わせてみてください。