求人と給料が違う!労働条件通知書の不備と対処法
入社してすぐ、給与明細を見て「あれ、求人で見た金額と違う」と気づいた。
「面接で聞いていた条件と実際が違う」
「そもそも労働条件通知書も雇用契約書ももらっていない」
——そんな不安を抱えていませんか。
求人や面接の説明と実際の労働条件が違うとき、泣き寝入りする必要はありません。
ただし、「求人票と違う」ことと「労働条件通知書と違う」ことは、関わる法律も相談先も異なります。
この手続きガイドでは、3つの書類の違いから、法的な考え方、証拠の残し方、会社への伝え方、そして労働基準監督署やハローワークなど相談先の使い分けまで、入社後トラブルの解決手順を整理して解説します。
1. まず確認:求人票・労働条件通知書・雇用契約書の違い
「条件が違う」と感じたら、最初に手元にある書類の種類を整理しましょう。
似たような書類ですが、法的な意味合いは大きく異なります。
| 書類 | 発行のタイミング | 法的な位置づけ |
|---|---|---|
| 求人票・求人広告 | 募集時(応募前) | 「申込みの誘引」。直ちに労働契約の内容にはならない |
| 労働条件通知書 | 労働契約の締結時 | 労働基準法第15条で交付(明示)が義務 |
| 雇用契約書 | 労働契約の締結時 | 法律上の作成義務はない(任意。労使双方が署名) |
1-1. 求人票は「確定した条件」ではない
ハローワークの求人票や求人サイトの記載は、法律上は「申込みの誘引」とされ、求職者が応募して初めて契約の申し込みになります。
そのため、求人票に書かれた賃金や労働時間が、そのまま労働契約の内容になるとは限りません。
ただし、これは「求人票はあてにならない」という意味ではありません。
過去の裁判例では、面接や入社時に双方が合意して条件を変更したといえる特段の事情がなければ、求人票に記載された労働条件が契約の内容になると判断されています(千代田工業事件 大阪高判 平成2年3月8日など)。
また、会社は求人票に記載した見込額を著しく下回る賃金を一方的に確定すべきではないとした裁判例もあります(八州測量事件 東京高判 昭和58年12月19日)。
1-2. 法的に最も重要なのは「労働条件通知書」
労働条件通知書は、労働基準法第15条によって会社に交付(明示)が義務づけられている書類です。
賃金や労働時間など、あなたと会社が結んだ「確定した契約内容」を示すものなので、条件の相違を争ううえで最も重要な証拠になります。
雇用契約書は法律上の作成義務がありませんが、労働条件通知書は労働基準法で交付が義務づけられています。
「契約書をもらっていない」場合でも、労働条件通知書は必ず請求できます。
2. 求人や説明と条件が違うのは違法?2つの法律で考える
「条件が違う=即違法」とは限りません。
どの書類と食い違っているかで、根拠となる法律が変わります。
2-1. 求人票と違う場合:職業安定法
ハローワークや求人サイトの求人内容と実際が違う場合は、職業安定法が関わります。
職業安定法第5条の3では、労働者を募集する会社に対して、業務内容・契約期間・就業場所・賃金などの労働条件を、書面の交付などで明示するよう義務づけています。
さらに、明示した条件を変更・削除・追加する場合は、求職者に変更内容を明示しなければなりません。
虚偽の条件を提示してハローワークや職業紹介事業者に求人を申し込んだ者は、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の対象になります(職業安定法第65条)。
2-2. 労働条件通知書・契約と違う場合:労働基準法
労働条件通知書や雇用契約書に書かれた条件と、実際の取り扱いが違う場合は、労働基準法第15条が根拠になります。
労働基準法第15条のポイントは次のとおりです。
- 労働条件の明示義務(第1項)
会社は労働契約を結ぶときに、賃金・労働時間などの労働条件を明示しなければなりません。
賃金や労働時間など重要な事項は、原則として書面で明示する必要があります。 - 即時に契約を解除できる(第2項)
明示された労働条件が事実と相違する場合、労働者はすぐに労働契約を解除できます。 - 帰郷旅費の負担(第3項)
就業のために引っ越した人が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合、会社は必要な旅費を負担しなければなりません。
正確な条文はe-Gov法令検索「労働基準法」で確認できます。
試用期間中だけ給与が本採用より低い場合など、あらかじめ提示・合意されていた条件であれば違法とは限りません。
まずは「何と何が、どう食い違っているのか」を冷静に整理することが大切です。
3. 入社後に条件の相違に気づいたら:最初にやること
感情的に会社と対立する前に、順番に動くことが解決への近道です。
3-1. まず「なぜ違うのか」を会社に確認する
条件が違う理由は、会社側の単純な事務ミスのこともあれば、意図的な場合もあります。
いきなり抗議するのではなく、「求人票や面接で伺った条件と、いただいた書類の金額が異なるようなので確認したい」と、事実関係の確認から始めましょう。
求人票と労働条件通知書で給与が違うとき、後から確認するのは失礼ではないかと遠慮する人もいますが、確認は正当な行為です。
3-2. 証拠を確保する
「言った・言わない」のトラブルを防ぐため、条件を裏づける証拠を早めに集めましょう。
- 求人票・求人広告
応募時の画面はスクリーンショットで保存します。
求人は削除・修正されることがあるため、気づいた時点ですぐに保存してください。 - 面接時のメモ・録音
口頭で説明された条件は、日付とともに記録しておきます。 - 会社とのやり取り
メールやチャットなど、文字で残るやり取りを保存します。 - 労働条件通知書・雇用契約書
交付された書面は原本を保管します。 - 給与明細・タイムカード
実際の賃金や勤務実態を示す資料として保存します。
条件の相違を主張するには、求人票・書面・給与明細などの客観的な証拠が不可欠です。
証拠がないと、会社に「そんな約束はしていない」と言われたときに対抗できません。
4. 労働条件通知書がもらえない場合の対処法
「正社員なのに雇用に関する書類を一切もらっていない」
「アルバイトで通知書がないまま働き始めた」
という相談は少なくありません。
しかし前述のとおり、労働条件通知書の交付は労働基準法第15条で義務づけられています。
4-1. 書面で明示が必要な項目
労働条件のうち、次のような「絶対的明示事項」は、原則として書面で明示しなければなりません(昇給に関する事項を除く)。
- 労働契約の期間
- 有期契約を更新する場合の基準(更新上限の有無と内容)
- 就業の場所・従事する業務(変更の範囲を含む)
- 始業・終業の時刻、所定外労働の有無、休憩・休日・休暇
- 賃金の決定・計算・支払いの方法、締切と支払いの時期
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
4-2. 2024年4月から明示事項が追加されている
2024年(令和6年)4月の改正で、労働契約の締結時などに明示すべき事項が追加されました。
- 就業場所・業務の「変更の範囲」
雇い入れ直後の内容に加え、将来変わり得る範囲も明示が必要になりました。 - 有期労働契約の更新上限
通算契約期間や更新回数の上限がある場合は、その内容を明示します。 - 無期転換に関する事項
無期転換申込権が発生する有期契約の更新時に、申込機会と転換後の労働条件を明示します。
4-3. もらえないときの進め方
まずは会社の担当者に、口頭ではなくメールなど記録の残る形で「労働条件通知書を交付してください」と求めましょう。
それでも応じない場合は、労働基準法違反として労働基準監督署に相談できます。
入社前後の必要書類については、こちらの手続きガイドも参考にしてください。
5. 会社への確認・交渉の進め方
証拠がそろったら、会社に条件の是正や差額の支払いを求めていきます。
5-1. 口頭ではなく書面・メールで
交渉の経緯は、後から証拠として使えるように記録に残しましょう。
口頭だけでは「言った・言わない」になりがちです。
「求人票では基本給◯◯円と記載されていましたが、労働条件通知書では△△円となっています。理由をご説明いただけますか」というように、具体的な金額や項目を示して書面・メールで伝えます。
5-2. 求める内容を整理する
交渉に入る前に、自分が何を望むのかを整理しておきます。
- 求人や約束どおりの条件への是正
- 既に発生した差額の支払い
- 改善が見込めない場合の退職と、その条件
会社が誠実に対応し、求人どおりの条件に是正してくれるなら、それが最も早い解決です。
まずは社内での話し合いを尽くし、それでも解決しない場合に公的機関への相談へ進みましょう。
6. 公的機関に相談する:窓口の使い分け
社内で解決しないときは、外部の相談窓口を活用します。
どの書類と食い違っているかで、適した窓口が変わります。
| 状況 | 主な相談先 |
|---|---|
| ハローワークの求人票と実際が違う | ハローワーク求人ホットライン |
| 労働条件通知書の不交付・賃金未払いなど労基法違反 | 労働基準監督署・総合労働相談コーナー |
| 賃金差額など労使間の民事トラブル | 個別労働紛争解決制度(助言・指導、あっせん) |
| 差額請求の訴訟を検討したい | 弁護士・法テラス |
6-1. ハローワーク求人ホットライン
ハローワーク経由の求人票と実際の条件が違う場合は、ハローワークの窓口またはハローワーク求人ホットラインに申し出ます。
申し出を受けると、ハローワークが該当する会社に事実確認や必要な指導を行います。
- 電話
03-6858-8609(求職者・就業者専用) - 受付時間
8:30〜17:15(年末年始を除く)
詳しくは厚生労働省「ハローワーク求人ホットライン」を確認してください。
6-2. 労働基準監督署・総合労働相談コーナー
労働条件通知書が交付されない、賃金が支払われないなど、労働基準法違反にあたる場合は、労働基準監督署が対応します。
各労働局や労働基準監督署内にある総合労働相談コーナーでは、あらゆる労働問題の相談を無料・予約不要で受け付けており、匿名での相談も可能です。
「労基署に相談すると会社にバレるのでは」と不安に感じる人は多いですが、総合労働相談コーナーでは匿名での相談ができます。
誰が相談したかを会社に知らせる仕組みではないため、まずは気軽に相談してみましょう。
6-3. 個別労働紛争解決制度(あっせん)
賃金差額のように、労働者と会社の間の民事的なトラブルは、個別労働紛争解決制度で解決を図れます。
- 助言・指導
都道府県労働局長が、当事者に解決の方向を示します。 - あっせん
弁護士や大学教授などの専門家が間に入り、双方の話し合いによる解決を促します。
いずれも無料で利用でき、最寄りの総合労働相談コーナーに申請できます。
詳しくは厚生労働省「個別労働紛争解決制度」を確認してください。
6-4. 弁護士・法テラス
差額の支払いを求めて訴訟も視野に入れる場合は、弁護士への相談を検討します。
費用が心配な場合は、収入などの条件を満たせば無料法律相談や費用の立替えが利用できる法テラスがあります。
7. 改善されない・納得できない場合:辞める選択肢
会社が条件を是正せず、働き続けることが難しいと感じたら、退職という選択肢があります。
7-1. 条件が事実と違えば即時に退職できる
明示された労働条件が事実と相違する場合、労働基準法第15条第2項により、労働者は即時に労働契約を解除できます。
通常の退職で必要とされる「2週間前の予告」を待たずに辞められるということです。
7-2. 引っ越した人は帰郷旅費を請求できる
その仕事のために住居を変えて引っ越した人が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合、会社は必要な旅費を負担しなければなりません(労働基準法第15条第3項)。
即時退職は「明示された条件と事実が違う」場合の権利です。
後から証明できるよう、求人票・労働条件通知書・給与明細などの証拠をそろえてから判断しましょう。
退職の具体的な進め方や退職後の手続きは、こちらの手続きガイドで解説しています。
8. 入社前・入社時にトラブルを防ぐチェックポイント
条件の相違は、入社前の確認で多くを防げます。
次の転職や、これから入社する人は、以下を意識しましょう。
- 内定承諾の前に労働条件通知書を確認する
- 求人票・求人広告のスクリーンショットを保存する
- 面接で説明された条件をメモに残す
- 不明点や口頭での約束は、メールなど書面で確認する
- 交付された労働条件通知書と求人内容を照合する
内定承諾前に労働条件通知書を見せてもらえないか相談してみるのも有効です。
承諾後に「条件が違った」と後悔しないために、書面で確認してから返事をしましょう。
よくある質問(FAQ)
Q. 求人票と給料が違うのは必ず違法ですか?
A. 必ずしも違法とは限りません。
求人票は法律上「申込みの誘引」とされ、そのまま契約内容になるとは限らないためです。
ただし、面接や入社時に双方が合意して変更したといえる特段の事情がなければ、求人票の条件が契約内容と判断されることがあります。
虚偽の求人だった場合は、職業安定法違反として罰則の対象になります。
Q. 労働条件通知書をくれない会社はどうすればいいですか?
A. まずメールなど記録の残る形で交付を求めましょう。
労働条件通知書の交付は労働基準法第15条で義務づけられています。
会社が応じない場合は、労働基準監督署や総合労働相談コーナーに相談できます。
Q. 試用期間中だけ給料が低いのは問題ありませんか?
A. あらかじめ提示・合意されていれば問題ないのが原則です。
試用期間中の給与が本採用より低いこと自体は、求人や労働条件通知書で事前に明示されていれば違法ではありません。
ただし、最低賃金を下回ることはできず、説明なく一方的に減額された場合は確認が必要です。
Q. 労基署に相談すると会社にバレますか?
A. 匿名で相談することができます。
総合労働相談コーナーでは匿名での相談が可能で、誰が相談したかを会社に知らせる仕組みではありません。
会社に知られたくない場合は、相談の段階でその旨を伝えておくと安心です。
Q. 求人と違うことを理由にすぐ辞められますか?
A. 明示された条件と事実が違えば、即時に退職できます。
労働基準法第15条第2項により、明示された労働条件が事実と相違する場合は、予告期間を待たずに労働契約を解除できます。
そのために、条件の相違を証明できる証拠を残しておきましょう。
Q. 払われなかった差額は後から請求できますか?
A. 労働条件通知書や契約と実際の賃金が違う場合は請求できる可能性があります。
労働条件通知書・雇用契約書・給与明細・タイムカードなどで、約束された賃金と実際の差額を示せることが前提です。
会社が応じない場合は、あっせんや弁護士への相談を検討しましょう。
まとめ
入社後に給料や条件が求人と違うと気づいたときの要点を整理します。
- 手元の書類が求人票・労働条件通知書・雇用契約書のどれかを確認する。
法的に最も重要なのは労働条件通知書 - 「求人票と違う」は職業安定法、「労働条件通知書・契約と違う」は労働基準法と、根拠になる法律が異なる
- まず会社に理由を確認し、求人票・面接メモ・メール・給与明細などの証拠を確保する
- 社内で解決しないときは、求人票ならハローワーク求人ホットライン、労基法違反なら労働基準監督署・総合労働相談コーナー、賃金差額ならあっせんと窓口を使い分ける
- 明示された条件と事実が違えば、労働基準法第15条で即時に退職でき、引っ越した人は帰郷旅費を請求できる
条件の相違は泣き寝入りせず、証拠をそろえて、適切な窓口に相談することが解決への近道です。