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配偶者居住権の手続き - 設定方法・登記費用・短期居住権との違い

配偶者居住権の手続き - 設定方法・登記費用・短期居住権との違い
最終更新:2026年5月28日

「夫が亡くなったら、この家を出なければならないの?」
「配偶者居住権と配偶者短期居住権って何が違うの?」
「手続きや登記はどうすればいいの?」
——相続のとき、残された配偶者の住まいを守る仕組みとして「配偶者居住権」があります。

2020年4月に施行された比較的新しい制度のため、「どうやって設定するの?」「登記は必要?」と疑問を持つ方が多いのが現状です。

この手続きガイドでは、配偶者居住権配偶者短期居住権の違い、設定方法(遺言・遺産分割協議・審判)、登記手続きと費用、メリット・デメリットまでわかりやすく解説します。

配偶者居住権とは?制度の概要をわかりやすく解説

配偶者居住権とは、亡くなった方(被相続人)が所有していた建物に、残された配偶者が無償で住み続けることができる権利です(民法第1028条)。

2020年4月1日に施行された改正民法で新設されました。

制度の仕組み

配偶者居住権は、建物の「所有権」と「住む権利(居住権)」を分離する制度です。

たとえば、夫が亡くなり相続人が妻と子の場合を考えます。


  • → 建物の所有権を相続

  • → 配偶者居住権を取得

このように権利を分けることで、妻は自宅に住み続けながら、預貯金などほかの遺産もより多く取得できます。

配偶者居住権が設定できる要件

配偶者居住権を設定するには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 被相続人の配偶者であること(法律婚のみ。内縁は対象外)
  • 相続開始時に、被相続人が所有する建物に居住していたこと
  • 遺言・遺産分割協議・家庭裁判所の審判のいずれかで配偶者居住権を取得すること
注意

被相続人が配偶者以外の者と建物を共有していた場合は、配偶者居住権を設定できません(民法第1028条1項ただし書)。
たとえば、被相続人と被相続人の兄弟が共有していた建物は対象外です。

存続期間

配偶者居住権の存続期間は、原則として配偶者の終身の間(亡くなるまで)です。

ただし、遺産分割協議や遺言、家庭裁判所の審判で別の期間を定めることもできます(民法第1030条)。

配偶者居住権と配偶者短期居住権の違い

配偶者居住権と配偶者短期居住権は名前が似ていますが、まったく異なる制度です。

比較項目配偶者居住権配偶者短期居住権
発生方法遺言・遺産分割協議・審判で設定自動発生(手続き不要)
存続期間原則として終身最低6ヶ月
対象範囲建物全部居住していた部分のみ
使用・収益使用と収益の両方(※)使用のみ
登記可能(すべき)不可
第三者への対抗力登記すれば対抗可能なし
第三者への譲渡不可不可
根拠条文民法第1028条〜第1036条民法第1037条〜第1041条

※配偶者居住権の「収益」について: 第三者に建物を賃貸する場合は、建物所有者の承諾が必要です(民法第1032条3項)。

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配偶者短期居住権は「自動発生する仮の住まい」

配偶者短期居住権は、遺産分割が確定するまでの間、配偶者が住み慣れた家に住み続けるための「つなぎの権利」です。

相続が開始した時点で建物に無償で住んでいれば、何の手続きもなく自動的に発生します。

配偶者居住権は「設定が必要な終身の居住権」

一方、配偶者居住権は自動では発生しません。

遺言で指定するか、遺産分割協議で合意するか、家庭裁判所の審判を得る必要があります。

そのかわり、終身にわたって住み続けられる強力な権利であり、登記によって第三者にも対抗できます。

ポイント

「配偶者短期居住権で住み続ければいいのでは?」と思うかもしれませんが、配偶者短期居住権は最低6ヶ月間の仮の権利です。
長期的に安心して住み続けるためには、配偶者居住権の設定が必要です。

配偶者居住権の設定方法(3つのルート)

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配偶者居住権を設定するには、以下の3つの方法があります。

方法1: 遺言(遺贈)で設定する

被相続人が生前に遺言書を作成し、配偶者に配偶者居住権を遺贈する方法です。

遺言書の記載例:

第○条 遺言者は、遺言者の所有する下記建物について、妻○○に配偶者居住権を遺贈する。
  • メリット
    — 被相続人の意思で確実に設定できる
  • 注意点
    — 遺言の効力が発生するのは被相続人の死亡時。
    生前に配偶者居住権を設定(登記)することはできない
重要

2020年4月1日より前に作成された遺言では配偶者居住権を設定できません。
制度利用を希望する場合は、施行日以降に遺言を作成し直す必要があります。

方法2: 遺産分割協議で設定する

被相続人が遺言を残さず亡くなった場合でも、相続人全員の合意(遺産分割協議)で配偶者居住権を設定できます。

手順:

  1. 相続人全員で遺産分割協議を行う
  2. 配偶者が配偶者居住権を取得することに合意する
  3. 遺産分割協議書を作成し、全員が署名・実印で押印する
  4. 配偶者居住権の設定登記を行う

遺産分割協議書の記載例:

第○条 相続人○○は、下記建物について配偶者居住権を取得する。
      存続期間: 配偶者居住権者の終身の間
第○条 相続人△△は、下記建物の所有権を取得する。

方法3: 家庭裁判所の審判で設定する

遺産分割協議がまとまらない場合、家庭裁判所に遺産分割の審判を申し立てることで、配偶者居住権が設定される場合があります。

審判で配偶者居住権が認められる条件(民法第1029条):

  • 共同相続人間で、配偶者が配偶者居住権を取得することに合意がある場合
  • 配偶者が配偶者居住権の取得を希望し、建物所有者の不利益を考慮してもなお、配偶者の生活維持に特に必要と認められる場合

配偶者居住権の登記手続き

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配偶者居住権を取得したら、できるだけ早く登記手続きを行うことが重要です。

なぜ登記が必要なのか

登記をしないと、配偶者居住権を第三者に対抗(主張)できません。

たとえば、建物の所有者(子など)が無断で建物を第三者に売却した場合、登記がなければ配偶者は買主に配偶者居住権を主張できず、退去を求められるおそれがあります。

注意

配偶者居住権の登記ができるのは建物のみです。
敷地(土地)には配偶者居住権の登記はできません。

登記の申請方法

配偶者居住権の設定登記は、共同申請で行います。

  • 登記権利者 — 配偶者(配偶者居住権を取得した人)
  • 登記義務者 — 建物所有者(相続により所有権を取得した人)

建物所有者には登記に協力する義務があります(民法第1031条1項)。

必要書類

書類備考
登記申請書法務局のWebサイトに様式あり
義務者の登記識別情報所有権移転登記で受け取ったもの
登記原因証明情報遺産分割協議書・調停調書・審判書・遺言書のいずれか
被相続人の住民票の除票登記上の住所と最後の住所が異なる場合
義務者の印鑑登録証明書発行から3ヶ月以内
委任状司法書士に依頼する場合

登録免許税

配偶者居住権の設定登記にかかる登録免許税は、不動産の価額(固定資産税評価額)の0.2%です。

計算例:

固定資産税評価額が2,000万円の建物の場合:

2,000万円 × 0.2% = 4万円

費用の目安

項目費用
登録免許税不動産価額の0.2%
公的書類の取得費用数百円〜数千円
司法書士への依頼費用5万〜10万円程度
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登記の手続き先

配偶者居住権の設定登記は、建物の所在地を管轄する法務局(登記所)で行います。

配偶者居住権のメリット・デメリット

メリット

  • 自宅に住み続けながら預貯金も確保できる
    所有権を取得するより低い評価額で済むため、残りの遺産(預貯金等)をより多く取得可能
  • 登記すれば第三者にも対抗できる
    建物が売却されても、配偶者居住権の登記があれば退去する必要がない
  • 家族を同居させられる
    配偶者の家族や家事使用人との同居は当然に認められる
  • 婚姻20年以上なら遺産分割で有利に
    配偶者居住権の遺贈は持ち戻し免除の推定が働き、取り分が減らない

デメリット

  • 第三者への譲渡ができない
    配偶者居住権は配偶者本人しか使えない権利で、売却できない
  • 増改築には所有者の承諾が必要
    リフォームやバリアフリー化をする際に所有者(子など)の承諾を得る必要がある
  • 固定資産税の負担関係が複雑
    納税義務者は所有者だが、通常の必要費として配偶者に請求される場合がある
  • 老人ホーム入居時の手続きが複雑
    配偶者居住権を放棄する場合、「みなし贈与」として課税されるおそれがある
  • 相続税の評価計算が複雑
    建物の耐用年数・築年数・配偶者の平均余命をもとに計算するため、専門家の助けが必要になりやすい
注意

配偶者居住権を設定したまま配偶者が老人ホームなどに入居する場合、配偶者居住権を放棄して建物所有者から対価を受け取ると贈与税が課される可能性があります。
放棄を検討する場合は、必ず税理士に相談してください。

配偶者居住権の消滅事由

配偶者居住権は以下の事由で消滅します。

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  • 配偶者の死亡
    配偶者居住権は一身専属の権利のため、配偶者が亡くなると当然に消滅します
  • 存続期間の満了
    遺産分割協議や遺言で定めた期間が経過した場合
  • 居住建物の全部滅失
    火災や災害等で建物が全部滅失した場合
  • 配偶者居住権の放棄
    配偶者が建物所有者との合意により自ら権利を放棄した場合
  • 配偶者が建物の所有権を取得した場合(混同)
    権利者と義務者が同一人物になるため消滅します
  • 用法遵守義務違反による消滅請求
    配偶者が建物を著しく不適切に使用した場合、所有者が消滅を請求できます(民法第1032条4項)
ポイント

配偶者が死亡して配偶者居住権が消滅すると、建物所有者は完全な所有権を回復します。
このとき、消滅した配偶者居住権に相当する価値は二次相続の課税対象になりません。
つまり、一次相続で配偶者居住権を設定しておくと、一次・二次相続トータルで相続税を軽減できる可能性があります。

配偶者短期居住権の仕組みと注意点

配偶者短期居住権は、相続開始後すぐに退去を迫られることのないよう、配偶者に一定期間の居住を保障する制度です(民法第1037条)。

自動発生の条件

以下の条件を満たせば、手続き不要で自動的に発生します。

  • 被相続人の配偶者であること
  • 相続開始時に被相続人の建物に無償で居住していたこと
ポイント

「無償で」がポイントです。
賃貸借契約を結んで家賃を支払っていた場合は、配偶者短期居住権ではなく賃借人としての地位が発生します。

存続期間

配偶者短期居住権の期間は、状況によって異なります。

  • 遺産分割が行われる場合
    遺産分割により建物の帰属が確定した日、または相続開始から6ヶ月を経過する日のいずれか遅い日まで
  • 遺贈・死因贈与で第三者に渡された場合
    建物取得者から消滅の申入れを受けた日から6ヶ月

注意点

  • 登記ができない
    — 建物が第三者に譲渡された場合、対抗できない
  • 使用のみ(収益は不可)
    — 建物を第三者に賃貸して収益を得ることはできない
  • 相続放棄しても住み続けられる
    — 相続放棄後も消滅申入れから6ヶ月は居住可能

よくある質問(FAQ)

Q. 子に所有権を渡しても住み続けられますか?

A. はい、住み続けられます。

配偶者居住権はまさにそのための制度です。

建物の所有権を子が相続し、配偶者が配偶者居住権を取得すれば、配偶者は終身にわたって無償で住み続けることができます。

所有権を持つ子は、配偶者居住権が消滅するまで建物から配偶者を退去させることはできません。

Q. 配偶者居住権を設定したまま老人ホームに入れますか?

A. 入居自体は可能ですが、配偶者居住権の取り扱いに注意が必要です。

配偶者居住権は「居住する権利」なので、長期間建物を使用しなくなった場合、建物所有者との関係で問題が生じる可能性があります。

配偶者居住権を放棄して対価を受け取る場合は贈与税(みなし贈与)の課税リスクがあるため、税理士への相談をおすすめします。

また、建物所有者の承諾を得れば第三者に賃貸し、賃料収入を老人ホームの費用に充てることも可能です。

Q. ローンが残っている家でも配偶者居住権は設定できますか?

A. 法的には設定可能です。

住宅ローンが残っている建物でも、配偶者居住権の設定自体は可能です。

ただし、住宅ローンの債務者が被相続人の場合、ローンの返済をどの相続人が引き継ぐかを遺産分割協議で取り決める必要があります。

なお、抵当権が実行されて建物が競売にかけられた場合、配偶者居住権は消滅する可能性があるため注意が必要です。

Q. 配偶者居住権の相続税評価はどうなりますか?

A. 建物の耐用年数・築年数・配偶者の年齢(平均余命)をもとに計算します。

配偶者居住権の相続税評価額は、以下の算式で計算されます。

建物の相続税評価額 − 建物の相続税評価額 × {(残存耐用年数 − 存続年数) ÷ 残存耐用年数} × 複利現価率

計算が複雑なため、税理士に依頼することをおすすめします。

なお、配偶者居住権の評価額が低いほど、配偶者はその分預貯金などほかの財産を多く取得できます。

Q. 配偶者居住権を登記しないとどうなりますか?

A. 第三者に権利を主張できなくなります。

登記がない状態で建物が第三者に売却された場合、買主に対して配偶者居住権を主張できず、退去を求められるおそれがあります。

配偶者居住権を取得したら、トラブル防止のためにできるだけ早く登記手続きを行いましょう。

まとめ

配偶者居住権は、残された配偶者が住み慣れた自宅に住み続けながら、預貯金などほかの遺産も確保できる制度です。

手続きのポイントを整理します。

  • 配偶者居住権は遺言・遺産分割協議・審判で設定が必要。
    配偶者短期居住権は自動発生する別の制度
  • 設定後は速やかに登記を行い、第三者への対抗力を確保する
  • 登記費用は固定資産税評価額の0.2% + 司法書士報酬(5万〜10万円程度)
  • 配偶者の死亡で権利が消滅し、二次相続の課税対象にならないため相続税の節税効果も期待できる

制度の活用を検討する場合は、相続税の評価計算や将来の生活設計を含めて、司法書士や税理士に早めに相談することをおすすめします。

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