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有給休暇を拒否されたら?時季変更権の範囲と違法な場合の対処法

有給休暇を拒否されたら?時季変更権の範囲と違法な場合の対処法
最終更新:2026年5月7日

「有給を申請したらシフトから消された」
「上司に『辞めるの?』と言われた」
「人がいないからダメと毎回断られる」
——こんな経験はありませんか?

有給休暇(年次有給休暇)は労働基準法で認められた労働者の権利です。

会社は原則として有給取得を拒否できません。

この手続きガイドでは、会社が唯一持つ「時季変更権」の正確な範囲、違法な拒否パターンの見分け方、社内での対応から労働基準監督署への申告手順までを解説します。

1. 有給休暇は「届出」であり「許可」ではない

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まず大前提として押さえておきたいのが、有給休暇の法的な位置づけです。

1-1. 労働者の「時季指定権」が原則

労働基準法第39条第5項は次のように定めています。

重要

「使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない」
(労働基準法第39条第5項)

つまり、有給休暇を「いつ取るか」を決める権利は労働者側にあります。

会社に「許可」をもらう必要はなく、「届出」をすれば取得できるのが原則です。

1-2. 取得に理由は不要

有給休暇を何に使うかは完全に労働者の自由です。

「旅行のため」「ゲームの発売日だから」「なんとなく休みたい」——どんな理由でも構いません。

そもそも申請時に理由を書く義務はなく、「私用のため」だけで十分です。

1-3. パート・アルバイトにも有給休暇はある

有給休暇は正社員だけの制度ではありません。

以下の条件を両方満たせば、パート・アルバイト・契約社員でも付与されます。

  • 入社から6ヶ月以上継続して勤務している
  • 全労働日の8割以上出勤している

週の所定労働日数に応じて付与日数は変わりますが、権利そのものは同じです。

1-4. 年5日の取得義務(2019年4月〜)

2019年4月の法改正により、年10日以上の有給休暇が付与される労働者に対して、使用者は年5日を確実に取得させる義務があります。

この義務に違反した場合、使用者には労働者1人あたり30万円以下の罰金が科されます。

2. 会社が唯一できること - 時季変更権とは

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有給休暇に対して会社側が持つ唯一の対抗手段が「時季変更権」です。

ただし、これは有給取得を「拒否」する権利ではありません。

2-1. 時季変更権の定義

時季変更権とは、「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合」に限り、別の日に変更することができる権利です(労働基準法第39条第5項ただし書き)。

あくまで「日をずらす」権利であり、有給取得そのものを拒否することは許されません。

2-2. 行使できる2つの条件

判例によれば、時季変更権の行使が認められるには、次の2つの要件を両方とも満たす必要があります。

  • 要件1: その労働者の業務が不可欠
    有給を取ろうとしている日に予定されている業務が、その労働者でなければ対応できないこと
  • 要件2: 代替要員の確保が困難
    会社が代替要員を確保しようと努力したが、それでも確保できなかったこと

2-3. 時季変更権が認められる可能性のある例

  • その労働者にしかできない専門業務があり、納期が翌日に迫っている
  • 繁忙期に複数の労働者が同じ日に有給を申請し、全員に付与すると営業が成り立たない
  • 決算期の経理担当者に期限直前の決算業務があるケース

2-4. 時季変更権が認められない例

  • 「忙しいから」だけの理由
    具体的に業務が回らないことを示せなければ認められません
  • 慢性的な人手不足
    常に人員が足りない状態は会社の経営・人員配置の問題であり、労働者の有給取得を制限する正当な理由になりません(名古屋高裁金沢支部判決 平成10年3月16日)
  • 代替日を提示しない「ただの拒否」
    時季変更権は別の日を提示する権利です。「ダメ」と言うだけで代わりの日を示さないのは時季変更権の行使にあたりません
ポイント

時季変更権が認められるのは極めて限定的なケースです。
「人がいないからダメ」は基本的に通用しません。

3. こんな場合は違法 - よくある拒否パターン

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以下のような対応を会社がしている場合、労働基準法違反の可能性があります。

3-1. 「人がいないから認められない」

慢性的な人手不足を理由にした拒否は違法です。

人員が足りない状態は会社の経営責任であり、労働者の有給取得を制限する正当な理由になりません。

3-2. シフトから有給を削除する

有給を申請したのに、シフト表を書き替えて有給を消す行為は悪質な権利侵害です。

申請を「なかったこと」にすることは許されません。

3-3. 理由を詳しく聞かれる・理由によって認めない

有給取得に理由は不要です。

「私用のため」以上の説明を求めること自体が不当であり、「その理由じゃダメ」と断ることは違法です。

3-4. 「辞めるの?」「協調性がない」などの圧力

有給を取得しようとする労働者に対して、退職を示唆したり、評価を下げると脅したりする行為はパワーハラスメントにも該当しえます。

3-5. 有給を欠勤扱いにする

有給休暇として届け出たのに、給与計算上「欠勤」として処理される場合は賃金未払いの問題にもなります。

3-6. 過度な申請ルールを課す

「2ヶ月前までに申請」「月に1日まで」など、法律を超えた厳しい社内ルールで実質的に取得を制限している場合も問題です。

注意

申請期限そのものは就業規則で定めることが認められていますが、「事前に余裕をもって」程度が通常です。
極端に長い期限設定は、有給取得権の実質的な制限として違法とされる可能性があります。

4. まず会社内でできる対応

いきなり外部機関に相談する前に、社内で解決できる可能性を探りましょう。

4-1. 書面(メール・チャット)で申請を出す

口頭での申請は「言った・言わない」の争いになりがちです。

必ずメール・社内チャット・書面など、記録が残る方法で申請してください。

  • 「○月○日に年次有給休暇を取得します」と明記する
  • 日付・申請日・宛先を記録に残す

メール文面の例は以下を参考にしてください。

件名: 年次有給休暇届(○月○日)

○○部長

お疲れ様です。○○です。
下記のとおり年次有給休暇を届け出ます。

取得日: 20XX年○月○日(○)
理由: 私用のため

以上、よろしくお願いいたします。

4-2. 拒否の返答も記録に残す

上司が口頭で「ダメ」と言った場合は、その場でメモを取るか、後からメールやチャットで「先ほどの有給申請について、○○という理由で認められないとのことでしたが、正式な回答でしょうか?」と確認を送りましょう。

拒否の事実と理由を証拠として残すことが重要です。

4-3. 就業規則を確認する

会社の就業規則に、有給休暇の申請方法や時季変更権の行使基準が書かれていることがあります。

就業規則の閲覧は労働者の権利です(労働基準法第106条)。

「見せてくれない」場合はその事実自体が法令違反です。

4-4. 社内のコンプライアンス部門に相談する

大きな会社であれば、コンプライアンス部門や人事・労務管理部門に相談する方法があります。

直属の上司の判断が法的に問題がある場合、上位の管理部門が是正してくれる可能性があります。

4-5. 労働組合に相談する

社内に労働組合がある場合は、組合を通じた団体交渉で解決を図ることもできます。

社内に組合がない場合でも、個人で加入できる合同労組(ユニオン)に相談する方法があります。

5. 労働基準監督署への相談・申告の手順

社内で解決できない場合は、労働基準監督署(労基署)への相談・申告を検討しましょう。

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5-1. 労基署に相談するタイミング

以下のいずれかに当てはまる場合は、労基署への相談が有効です。

  • 書面で申請しても一方的に拒否される
  • 拒否の理由が時季変更権の要件を満たしていない
  • 有給を欠勤扱いにされている
  • 年5日の取得義務が守られていない

5-2. 準備する証拠・資料

労基署が動くためには、違法行為の証拠が必要です。

以下を可能な範囲で準備してください。

  • 有給休暇の申請書(メール・チャットのスクリーンショットなど)
  • 会社からの拒否の記録(メール・チャット・メモ)
  • 就業規則(有給休暇の項目)
  • 雇用契約書
  • 給与明細(有給残日数がわかるもの)
  • 勤怠管理表(欠勤扱いの証拠)

5-3. 相談方法と受付時間

労基署への相談方法は2つあります。

方法内容匿名性
窓口相談最寄りの労基署に直接訪問匿名可
電話相談「総合労働相談コーナー」に電話匿名可

開庁時間は平日8:30〜17:15です(土日祝・年末年始は閉庁)。

最寄りの労基署は厚生労働省「全国労働基準監督署の所在案内」で確認できます。

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5-4. 「相談」と「申告」の違い

  • 相談
    一般的なアドバイスをもらう手続き。匿名で可能
  • 申告
    違法行為を通告し、是正勧告や改善指導を求める手続き。氏名・住所の記入が必要

申告の場合でも、「会社に名前を出さないでほしい」と伝えれば配慮してもらえます。

労基署から会社に申告者の名前が知らされることは基本的にありません。

5-5. 是正勧告の仕組みと効果

労基署が違法と判断した場合、会社に対して是正勧告が出されます。

  1. 労基署が事業場に立入調査を実施
  2. 法違反が認められれば是正勧告書を交付
  3. 会社は指定期日までに是正し、報告書を提出

是正勧告には法的強制力はありませんが、改善されない場合は第39条違反として送検され、刑事罰(6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金)が科される可能性があります。

実際には、是正勧告が出された時点でほとんどの会社が対応を改めます。

5-6. 申告を理由にした不利益取扱いは禁止

「労基署に申告したことを理由に解雇・降格・配置転換などの不利益取扱いをすること」は労働基準法第104条第2項で禁止されています。

万が一不利益取扱いを受けた場合は、それ自体も労基署に申告できます。

6. 労基署以外の相談先

労基署に相談しても解決しない場合や、より踏み込んだ対応が必要な場合は、以下の機関も選択肢です。

6-1. 都道府県労働局のあっせん制度

労働局の「個別労働紛争解決制度」を利用すると、あっせん委員(弁護士・社会保険労務士など)が間に入り、労使間の話し合いを仲介してくれます。

  • 無料で利用できる
  • 会社にあっせんへの参加義務はない(拒否される場合もある)
  • 相場として、1〜2ヶ月程度で結論が出る

6-2. 総合労働相談コーナー

全国の労働局・労基署に設置されている無料相談窓口です。

「まず何をすればいいかわからない」という段階でも気軽に相談できます。

電話でも相談可能で、解雇・賃金・パワハラなど幅広い労働問題に対応しています。

詳しくは厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」をご確認ください。

6-3. 弁護士への相談

有給拒否が悪質で、損害賠償(慰謝料)を請求したい場合や、労働審判・訴訟を視野に入れる場合は弁護士への相談が有効です。

  • 有給拒否が不法行為(民法第709条)にあたる場合、損害賠償請求ができる可能性がある
  • 弁護士が会社との交渉を代行してくれる
  • 労働問題を専門とする弁護士事務所では初回相談無料のところも多い

6-4. 労働審判制度

裁判所で行われる労働紛争の解決手続きです。

原則3回以内の期日で結論が出るため、通常の裁判より短期間で解決できます。

調停が成立しない場合は「労働審判」が出され、異議がなければ確定判決と同じ効力を持ちます。

よくある質問(FAQ)

Q. パートやアルバイトでも有給休暇はありますか?

A. あります。

雇用形態に関係なく、入社から6ヶ月以上継続勤務し、全労働日の8割以上出勤していれば有給休暇は付与されます。

週の所定労働日数に応じて日数は変わりますが、権利そのものは正社員と同じです。

Q. 有給申請は何日前までにすればいいですか?

A. 法律には「何日前」という具体的な期限はありません。

就業規則で「○日前までに届出」と定めている会社が多いですが、一般的には1〜2週間前が目安です。

ただし、あまりに直前の申請は会社の時季変更権が認められやすくなるため、可能な限り余裕をもって申請することをおすすめします。

Q. 退職時に有給を消化したい場合は?

A. 退職時の有給消化は労働者の権利です。

退職日が決まっている場合、会社は時季変更権を行使できません(変更先の日がないため)。

退職時の有給消化の具体的な手順は以下の手続きガイドで詳しく解説しています。

Q. 有給を取ったら評価が下がると言われました。これは違法ですか?

A. 違法です。

有給休暇の取得を理由とした不利益取扱い(評価の引き下げ・賞与の減額・昇進の見送りなど)は、労働基準法の趣旨に反する行為であり、公序良俗違反(民法第90条)として無効とされる可能性があります。

このような発言を受けた場合は、日時と内容をメモに残し、証拠として保全してください。

Q. 有給を申請したら「理由を教えて」と言われます。答える義務はありますか?

A. 答える義務はありません。

有給休暇の利用目的は完全に労働者の自由であり、会社に理由を説明する法的義務はありません。

聞かれた場合は「私用のため」で問題ありません。

理由によって承認・不承認を判断することは違法です。

Q. 有給休暇の「買い取り」を提案されました。応じるべきですか?

A. 有給休暇の買い取りは原則として違法です。

有給休暇は「休む権利」であり、会社が金銭で代替することは認められていません。

ただし、以下の3つのケースでは例外的に買い取りが認められる場合があります。

  • 退職時に消化しきれなかった有給の買い取り
  • 法定日数を超えて付与されている分の買い取り
  • 時効(2年)で消滅した分の買い取り

「有給を取るな、代わりにお金を払う」という提案は違法ですので、応じる必要はありません。

まとめ

有給休暇は労働基準法第39条で保障された労働者の権利であり、会社は原則として取得を拒否できません。

会社が持つ「時季変更権」は、事業の正常な運営を妨げる場合に別の日に変更する権利にすぎず、有給そのものを拒否する権利ではありません。

対応の流れを整理すると、以下のステップで進めてください。

  1. 権利を正しく理解する — 有給は届出であり許可ではない
  2. 書面で申請し、拒否も記録に残す — 証拠の確保が最重要
  3. 社内で解決を試みる — コンプライアンス部門・労働組合に相談
  4. 外部機関に相談する — 労基署・労働局・弁護士

「人がいないからダメ」「忙しいからダメ」は法的に通用しない理由であることを覚えておいてください。

自分の権利を正しく知り、証拠を残しながら段階的に対応することで、状況を改善できる可能性は十分にあります。

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