生活保護の扶養照会の断り方〜届いた封書の書き方も解説
ある日突然、市区町村の福祉事務所から「扶養義務の履行について(照会)」「扶養届書」といった封書が届き、戸惑っていませんか。
「もう何年も連絡を取っていない兄弟なのに、なぜ自分に?」
「援助しないといけないの?」
「自分の生活で精一杯なのに、収入まで書かされるの?」
「無視したらどうなるんだろう…」
これは、別居している親・子・兄弟姉妹などが生活保護を申請・受給したときに、自治体が親族に送る「扶養照会」という手続きです。
結論から言えば、あなたに援助が強制されることはなく、断ることも、回答しないことも認められています。
この手続きガイドでは、扶養照会の法的な意味から、回答書(扶養届書)の具体的な書き方・断り方、無視した場合のリスク、毎年届く照会を止める方法、相談窓口までをわかりやすく解説します。
1. 扶養照会とは?なぜ自分に届いたのか
扶養照会とは、生活保護の申請を受けた福祉事務所が、申請者の親族に対して「経済的・精神的な援助ができないか」を問い合わせる手続きです。
あなたのもとに封書が届いたのは、別居している親・子・兄弟姉妹といった親族が生活保護を申請、または受給したためです。
生活保護の制度では、親族による援助(扶養)が生活保護よりも優先される建前になっています。
そのため福祉事務所は、申請者本人だけでなく、その親族にも援助の余地があるかどうかを確認しているのです。
届く書類の名称
自治体によって書類の名前は少しずつ異なりますが、おおむね次のような名称で届きます。
- 扶養義務の履行について(照会)
- 扶養照会書
- 扶養届書
- 扶養に関する照会
封筒の中には、援助できるかどうかを記入して返送する「回答書(扶養届書)」と、返信用封筒が同封されているのが一般的です。
扶養照会が届いたからといって、あなたが何か悪いことをしたわけでも、義務を怠ったわけでもありません。
これは制度上の確認手続きであり、申請者(あなたの親族)が生活保護を申請したことに伴う、事務的な問い合わせです。
なお、申請する親族側の生活保護の仕組み全体について知りたい場合は、次の手続きガイドもあわせて参考にしてください。
2. まず知ってほしい3つの安心ポイント
具体的な対処法に入る前に、不安をやわらげるために、最初に結論となる3つのポイントをお伝えします。
ポイント1: 援助は強制されない
親族だからといって、申請者を援助することを強制されることはありません。
自分の生活を犠牲にしてまで仕送りをする義務は、法律上もありません(詳しくは「3. 扶養義務の範囲と限度〜法的根拠」で解説します)。
「援助できる」「援助したい」と自分で判断した場合だけ援助すればよく、それ以外は断ることができます。
ポイント2: 回答に法的義務はなく、無視してもペナルティはない
扶養照会の回答書を返送することは、法律上の義務ではありません。
返信しなかったとしても、罰金や差し押さえといったペナルティが科されることはありません。
ポイント3: あなたが断っても、親族の生活保護は止まらない
「自分が断ったら、親族が生活保護を受けられなくなるのでは」と心配する人がいますが、その必要はありません。
後述するとおり、扶養は生活保護を受けるための「要件(条件)」ではないため、あなたが援助を断っても、それだけで親族の受給が止まることはありません。
扶養照会は「あなたを問い詰めるもの」ではなく、「援助できる人がいれば、その分を優先する」という制度上の確認にすぎません。
落ち着いて、自分の生活状況に正直に対応すれば大丈夫です。
3. 扶養義務の範囲と限度〜法的根拠
「断ってよい」と言われても、法律で義務づけられているのではないかと不安になる方も多いでしょう。
ここでは、扶養義務がどこまで及ぶのか、その法的な根拠と限度を整理します。
誰に扶養照会が届くのか
扶養義務の根拠となるのは、民法877条です。
第八百七十七条
直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
2 家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。
つまり、当然に扶養義務を負うのは、次の範囲です。
- 直系血族(親・子・祖父母・孫)
- 兄弟姉妹
おじ・おば・甥・姪などの三親等の親族は、原則として「特別の事情」があり、家庭裁判所の審判があってはじめて扶養義務を負います。
扶養照会も通常は二親等以内の親族(親・子・きょうだい・祖父母・孫)に送られ、過去におじ・おばから援助を受けていたなどの特別な事情がある場合に限って、三親等にも届くことがあります。
条文はe-Gov法令検索(民法)でも確認できます。
「強い扶養義務」と「弱い扶養義務」の違い
扶養義務には、関係によって強さに違いがあります。ここが断れるかどうかを理解するうえで最も重要なポイントです。
| 種類 | 対象となる関係 | 義務の内容 |
|---|---|---|
| 生活保持義務(強い義務) | 夫婦間、親と未成熟の子(中学3年生以下)の関係 | 自分と同じ程度の生活を保障する義務 |
| 生活扶助義務(弱い義務) | 成人した子と親、兄弟姉妹など上記以外 | 自分の生活を維持したうえで、なお余力があれば援助する義務 |
別居している兄弟姉妹や、成人した子と親の間は、原則として「弱い扶養義務(生活扶助義務)」にとどまります。
これは、自分や自分の家族の生活を犠牲にしてまで援助する義務ではありません。
自分の暮らしを普通に維持したうえで、それでも金銭的な余裕がある場合に、はじめて援助を求められる程度のものです。
実際の調査でも、夫婦や親と未成熟の子といった「強い義務」の関係には重点的な調査が行われる一方、それ以外の親族に対しては文書による照会など必要最小限の調査にとどめる運用とされています。
あなたのもとに家庭訪問ではなく書類が届いたのも、こうした運用の表れといえます。
あなたが別居の兄弟姉妹や成人後の親子の関係であれば、扶養義務は「弱い義務」です。
自分の生活で精一杯であれば、援助できないと回答してまったく問題ありません。
扶養は生活保護の「要件」ではない
もう一つ重要なのが、生活保護法4条2項の定めです。
扶養義務者による扶養は、生活保護に「優先して行われる」とされていますが、これは生活保護を受けるための「要件(条件)」とは異なる位置づけです。
厚生労働省の通知でも、次のように明確にされています。
- 扶養は、実際に援助が行われたときに、その分を申請者の収入として扱うという意味にすぎない
- 扶養義務者が援助できるかどうかは、生活保護の要否(受けられるかどうか)の判定に影響を及ぼさない
つまり、あなたが「援助できない」と答えても、それが理由で親族が生活保護を受けられなくなることはないのです。
4. 扶養照会の封書が届いたときの対処の流れ
実際に封書が届いたら、次の流れで対応すれば大丈夫です。あわてて返送する必要はありません。
- 封書の中身(回答書・案内文・返信用封筒)を確認する
- 自分が援助できる状況か、援助する意思があるかを考える
- 援助できない場合は「援助できません」と記入する(または無回答とする)
- 必要に応じて福祉事務所や相談窓口に問い合わせる
- 同封の返信用封筒で返送する
回答書には「○日以内(おおむね2週間程度)に返送してください」と書かれていることが多いですが、これは事務処理上の目安であり、過ぎたからといって罰則があるわけではありません。
ただし、回答が遅れると申請者の手続きが滞ることがあるため、援助できない場合でも、早めに返送するのが親切です(理由は「6. 回答せずに無視したらどうなる?」で解説します)。
5. 扶養届書(回答書)の書き方〜断る場合の記入例
ここでは、最も知りたい人が多い「回答書の具体的な書き方」を解説します。
回答書の主な記入欄
書式は自治体によって異なりますが、おおむね次のような項目で構成されています。
- 援助できるかどうか
「援助・扶養します」「援助・扶養できません」のいずれかを選ぶ欄。 - 金銭的な援助の可否・金額
援助できる場合に、毎月いくら援助できるかを書く欄。 - 精神的な支援の可否
金銭以外の支援(定期的な声かけ、相談に乗るなど)ができるかを書く欄。 - あなた自身の家族構成・収入
回答者本人の世帯状況や収入を書く欄。
援助できない場合の記入例
金銭的な余裕がなく援助できない場合は、シンプルに「できません」を選び、理由を一言添えれば十分です。
理由欄には、たとえば次のように記入します。
- 自分の生活で精一杯のため、援助できません
- 自身の世帯の生活維持で手一杯で、経済的な援助はできません
- 長年音信不通で交流がなく、援助できる関係にありません
長文を書く必要はありません。「援助できない」という意思が伝われば問題ありません。
収入・資産の欄は記入しなくてもよい
回答書には自分の収入や資産を書く欄がありますが、ここに記入する法的な義務はありません。
無記入で返送しても、本当に援助できるのかを福祉事務所が勝手に調べたり、あなたの預金や年収を強制的に照会したりすることはありません。
収入を書きたくない場合は、空欄のまま「援助できません」とだけ回答しても差し支えありません。
経済的に余裕がないのに、気をつかって「援助できる」と書いてしまうのは避けましょう。
無理に援助すると、あなた自身の生活が苦しくなるうえ、申請者も十分な保護を受けられなくなるおそれがあります。
余裕がなければ、正直に「できません」と回答して構いません。
精神的な支援の欄について
精神的な支援とは、お金の援助ではなく、ときどき連絡を取る、相談に乗るといった金銭以外のサポートのことです。
ここで「可(できる)」と書いても、金銭的な負担が発生するわけではありません。
関わりを持ちたくない場合は、無理に「可」とする必要はなく、空欄でも、「できません」でも構いません。
関係が壊れている・関わりたくない場合
絶縁状態、長年の音信不通、過去のトラブルなどで関わりたくない場合は、その旨を簡潔に書いて返送するか、無回答とすることもできます。
DVや虐待など、連絡を取ること自体が危険な場合は、回答書に書かず、まず福祉事務所や下記の相談窓口に相談してください。
6. 回答せずに無視したらどうなる?
「もう関わりたくないので、いっそ無視したい」と考える人も少なくありません。
結論として、回答しない(無視する)こと自体に法的な問題はなく、ペナルティもありません。
無視した場合に起こること
- 回答書を返送しなくても、罰則・罰金・差し押さえなどはありません
- 返信がない場合、福祉事務所は「扶養の意思なし(援助は期待できない)」と判断します
- その結果、申請者(親族)の生活保護がそのまま受けられなくなることはありません
ただし、申請者の手続きが遅れることがある
一方で、回答がないと福祉事務所が援助の可否を確認するのに時間がかかり、申請者の生活保護の決定や支給開始が遅れる可能性があります。
申請した親族のことを考えると、援助しない場合でも「できません」と一言だけ書いて早めに返送するほうが、結果的に親族のためになります。
少額訴訟や差し押さえを心配しなくてよい理由
「無視したら少額訴訟を起こされるのでは」「給料を差し押さえられるのでは」と不安に思う声もありますが、実務上、そうしたことはほぼ起こりません。
福祉事務所が扶養を強制するには、家庭裁判所に扶養の調停や審判を申し立てるという、まったく別の手続きが必要になります。
別居の兄弟姉妹や成人後の親子のような「弱い扶養義務」では、自分の生活を犠牲にしてまで援助する義務は認められにくいため、こうした法的手続きにまで進むケースは現実にはごくまれです。
無視それ自体に罰則はありません。
ただ、申請した親族の支給開始を遅らせないためにも、「援助できません」と簡潔に回答して返送するのがおすすめです。
7. 毎年届く扶養照会を止める方法
親族が生活保護を受給し続けている間、扶養照会が毎年のように届くことがあります。
「そのたびに気が重くなる」「もう送ってこないでほしい」という場合は、照会の送付を止めるよう申し出ることができます。
「扶養照会に関する申出書」を提出する
支援団体である生活保護問題対策全国会議やつくろい東京ファンドは、親族側が扶養照会を止めるために使える「扶養照会に関する申出書(親族側版)」を作成・公開しています。
今後の文書送付をやめてほしい場合は、この申出書に記入し、照会の文書を送ってきた福祉事務所あてに郵送します。
申出書のひな形は、つくろい東京ファンドのページからダウンロードできます。
背景:2021年に照会の運用が見直された
近年、扶養照会の運用は見直しが進んでいます。
厚生労働省は2021年(令和3年)に通知を出し、次のような場合には扶養照会を行わなくてよいことを明確にしました。
- 親族からDVや虐待を受けていた場合
- 親族と10年程度音信不通であるなど、交流が断絶している場合
- 親族に借金を重ねている、相続をめぐって対立しているなど、著しく関係が悪い場合
これは主に申請者を守るための見直しですが、受け取る親族側にとっても、強引な照会が以前より減っているという安心材料になります。
8. 困ったときの相談窓口
書き方に迷ったり、強引に援助を求められたりして困ったときは、一人で抱え込まず、次の窓口に相談してください。
- 福祉事務所(送付元の自治体)
まずは封書の差出人である自治体の生活保護担当課に問い合わせます。書き方や提出について確認できます。 - 都道府県・政令市の生活保護課
福祉事務所の対応に納得できないときは、その上にあたる都道府県や政令市の生活保護課に相談できます。 - 社会福祉協議会
地域の福祉に関する相談に対応しています。 - 支援団体(つくろい東京ファンド、もやい など)
扶養照会や生活保護に詳しいNPOが、当事者・親族双方の相談を受け付けています。
法律的なトラブルに発展しそうな場合や、無料で弁護士に相談したい場合は、法テラスも利用できます。
なお、DVや虐待などで相手に自分の住所を知られたくない場合は、住民票の閲覧を制限する手続きもあわせて検討してください。
9. よくある質問(FAQ)
Q. 回答書の収入欄は必ず書かないといけませんか?
A. 記入する義務はありません。
自分の収入や資産を書く欄が設けられていても、そこに記入する法的な義務はありません。
無記入のまま「援助できません」とだけ回答しても問題なく、福祉事務所が勝手に収入を調べることもありません。
Q. 「援助できる」と書いたら、必ず仕送りしないといけませんか?
A. 回答が即座に強制力を持つわけではありませんが、慎重に記入してください。
回答書に「援助できる」と書いたからといって、その場で法的な支払い義務が生じるわけではありません。
ただし、援助を前提に話が進むため、実際には余裕がないのであれば、最初から「できません」と正直に回答するほうが安全です。
Q. 預金や資産があっても、援助を断れますか?
A. 断れます。
別居の兄弟姉妹や成人後の親子は「弱い扶養義務」にとどまり、自分の生活を犠牲にしてまで援助する義務はありません。
ある程度の資産があっても、自分や家族の生活設計を踏まえて「援助できません」と判断することは認められています。
Q. 何年も絶縁している家族でも届きますか?無視しても大丈夫ですか?
A. 絶縁していても届くことがありますが、無視しても罰則はありません。
戸籍をたどって照会が送られるため、長く連絡を取っていない家族にも届くことがあります。
回答は義務ではないため無視しても罰則はありませんが、申請者の手続きを早めるためにも「できません」と一言返送するのがおすすめです。
Q. 自分が援助を断ると、親族は生活保護を受けられなくなりますか?
A. なりません。
扶養は生活保護の「要件(条件)」ではなく、あくまで「優先される」だけの位置づけです。
あなたが援助を断っても、それが理由で親族の生活保護が打ち切られたり、認められなくなったりすることはありません。
Q. 精神的支援の欄を「可」にすると、何か負担がありますか?
A. 金銭的な負担は生じません。
精神的支援とは、声かけや相談に乗るといった金銭以外のサポートのことで、「可」にしてもお金を求められることはありません。
関わりを持ちたくない場合は、無理に「可」とせず、空欄や「できません」でも構いません。
10. まとめ
生活保護を受給する親族の扶養照会が届いても、過度に不安になる必要はありません。最後に要点を整理します。
- 扶養照会は、親族の生活保護申請に伴う事務的な確認手続きで、あなたが悪いわけではない
- 別居の兄弟姉妹や成人後の親子は「弱い扶養義務」で、自分の生活を犠牲にする義務はない
- 余裕がなければ「自分の生活で精一杯のため援助できません」と書いて返送すればよい
- 収入・資産欄は記入義務がなく、無記入でもよい
- 回答は法的義務ではなく、無視しても罰則はない(ただし申請者の手続きを遅らせないため早めの回答が親切)
- 扶養を断っても、親族の生活保護が止まることはない
- 毎年届くのがつらい場合は「扶養照会に関する申出書」で送付停止を求められる
- 迷ったら、福祉事務所や法テラス、支援団体などに相談する
自分の生活を守ることを最優先に、正直に、落ち着いて対応してください。